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2011.11.09
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  『星と月は天の穴』吉行淳之介(講談社文庫)

 上記小説の読書報告後半であります。前半は、全く女性的な彩りのないほとんど砂漠を行くごとき不毛な青春を私は送ってしまった我が人生は過ちだった私の青春を返せっ!

 という「血の叫び」のような愚痴が、ひたすら書いてあったように思います、たぶん。

 さて後半ですが、本書の特に前半から中盤にかけてですか、何といいますか少し言葉を選びますが、どうも「エゴイスティック」な感じの展開に、やや違和感を持ちつつ私は読んでおりました。
 この感じは、吉行作品以外でもはてどこかで、と思い出してみますと、何となく思い当たりました。
 村上春樹の『ファミリー・アフェア』という短編小説であります。(『パン屋再襲撃』文藝春秋社)

 ただこの村上作品は、村上春樹的文体が(特に初期から『ノルウェイの森』あたりまでの)全開、フル・スロットルという感じで、面白いことこの上ない小説であります。
 笑って楽しんで、しかし、にもかかわらず読後感は、やや苦い感じのもの(私にとって)になっています。それは、こんな主人公だからかも知れません。

「どうして努力しようとしないの? どうしてものごとの良い面を見ようとしないの? どうして少くとも我慢しようとしないの? どうして成長しないの?」
「成長してる」と僕は少し気持ちを傷つけられて言った。
「我慢もしてるし、ものごとの良い面だって見ている。君と同じところを見てないだけの話だ」
「それが傲慢だって言うのよ。だから二十七にもなってまともな恋人もできないのよ」
「ガール・フレンドはいるよ」
「寝るだけのね」と妹は言った。「そうでしょ? 一年ごとに寝る相手をとりかえてて、それで楽しいの? 理解とか愛情とか思いやりとかそういうものがなければ、そんなの何の意味もないじゃない。マ○ターベーションと同じよ」
「一年ごとになんかとりかえていない」と僕は力なく言った。
「同じようなものよ」と妹は言った。「少しはまともな考え方をして、まともな生活をすれば? 少しは大人になれば?」


 (あのー、びっくりしたんですがー「マス○ーベーション」がこのブログは不許可なんですね。しかし、ねぇ。まぁ、ともかく、原文はちゃんと「○スターベーション」と書いてあります。)

 この作品は、かつて村上春樹作品に対する批判的な論調の中で「『やれやれ』とため息をつきながら(女性に対して)舌なめずりをしている」というようなことを言われた、まさにその対象にうってつけの小説でありました。

 ともあれ、吉行作品は、この村上作品よりもさらに20年ほども先行して書かれ、女性に対する考え方は、もっと性欲に収斂しています。そして、それと裏腹のように、女性に対する「恐怖心」が作品中に充ちています。

 もしもそうなった場合、どうなる、と彼は自分の心に訊ねてみた。もう一度、一人の女と一緒に生活してゆく決心をつけることができるか。
 到底できることではない。
 それどころか、一人の女に自分の部屋に入ってこられることさえ、いまは避けたい気持ちでいる。自分の女についての身構え方は、偏見に満ちたものなのか、あるいはその本質に触れているものなのか……。もしも決心できないのなら……、と矢添は考えをめぐらせている。


 こんな主人公の感じ方が、終盤にかけて変化していくというのが、この話のクライマックスになっています。そしてそのあたりの展開は、まことに上手に描かれております。

 それは、こんなバイアスの掛かった形でしか女性と接することのできない男が、やはり同様にバイアスの掛かった形でしか男と接することのできない若い女と深く関係していく過程の中で、恋愛の不毛は自分の中にのみ偏在しているのではないことに気づくという形で変わっていきます。
 そしてその変化していく場面の描写は、やはりこの種の男女の話を書かせれば第一級の筆者らしい、見事なものとなっています。

 というところで私は気が付いたのですが、実はわたくし、さほどたくさんの吉行作品を読んでいるわけではないので、全体的な傾向について述べることはできないのですが、芥川賞を受賞した『驟雨』という作品も、そんな話ではなかったか、と。
 確か、肉体的な関係のみを主とする娼婦との間に、精神的なものが入ってくる瞬間を描いた作品だったと思います。

 ……デビュー作は、その作家のすべてを含んでいるという言い回しがありますが、なるほど、本作も、その変奏曲の一つと考えることができる、というわけですね。


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Last updated  2011.11.09 06:54:08
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