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近代日本文学史メジャーのマイナー

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2012.04.05
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カテゴリ:明治~・劇作家

  『暖流』岸田国士(新潮文庫)

 筆者は、一般的には劇作家として知られていますね。だから(「だから」ということもないですが)一応本ブログのカテゴリーとしては、劇作家に置いておきました。本書は、実は小説であります。(今までも、萩原朔太郎とあっても、詩の読書報告は書いておらず、正岡子規とあっても、俳句の報告はしていません。えー、どうでもいいようなつまんない話で、すみません。でも、次、岸田国士を読む時はぜひ戯曲を読みたいと思います。)

 さて、病院が舞台の小説であります。
 私はさほど知っているわけではないですが、病院舞台の小説って、結構たくさんありそうですよね。小説に限らず、映画でもテレビでも。

 だってちょっと考えただけでも、病院というところは、いかにもいろんなドラマを生み出しそうではありませんか。
 例えば、人の命のドラマ。生命のドラマは、いやがおうにも感動を生み出します。泣きます。
 例えば、富裕層の人間関係のドラマ。医者といえば、高額所得者であります。病院といえば、そんな方々の集まりでありますから、すぐにそんなドラマは成立しちゃいます。富は人間の葛藤を生み出す最大の原因であります。
 そして例えば、権力のドラマ。「パワハラ」とか「ドクハラ」なんて言葉がありますが、パワーエリートであるお医者さんによる病院内の権力争いとくれば、まさにドラマの温床ではありませんか。
 そしてそれぞれに、なんか、どろどろとしてちょっとエッチっぽい話が絡んできそうですよねー。
 (……えー、すみません。根が下品な人間なもので。でも、「お医者さんごっこ」といえば、うれしはずかし幼ないころのセピア色の記憶じゃありませんか。違うのかな。)

 というわけで、いかにも、病院はドラマの揺籃であります。
 ありますが、本小説がそんな話かといいますと、そんな部分も全くないとはいいませんが、もう少し「やわい」です。(「やわい」とは、柔らかいといいますか、弱いといいますか、その真ん中あたりのニュアンスで用いました。)

 なぜ「やわい」かといいますと、思い当たる理由は二つあります。
 まず「その1」は、本書が昭和13年に朝日新聞に連載されたものであるということ。本書の解説に、『暖流』というタイトルの由来を作者自身の言葉として紹介していますが、こんな文章です。

 私はむしろ、最も冷酷な現実のなかにこそ人間の生きようとする意志が、「神聖な火」が燃えていることを信じ、たとえば風雪の海上に一脈の暖流を探ろうとするのである。

 別に新聞小説だからということではありませんが(だって、漱石のほとんどの作品や鴎外の史伝まで新聞掲載なんですから。もっとも、鴎外の史伝は新聞掲載としては極めて不評だったそうですし、それにそもそも、漱石鴎外の頃と岸田国士の頃では新聞の読者層がかなり異なっているかも知れませんしね)、制作に当たっての筆者の意識が、さほど「タイト」なものではなかったということですね。

 次に、本小説が風俗小説だということでありまして、風俗小説といえば、近年の日本文学の極めて上質な結実として、やはり丸谷才一の諸作品を外すわけにはいきません。そして丸谷風俗小説と比較して明らかな差は、風俗を描きつつ登場人物の心理にどれくらい深く食い込めるかという事だと思います。

 ひょっとしたら、それは比べる相手がよくないだろうといわれるかも知れませんが(上記のように丸谷風俗小説は時代の一級品であります)、やはりそこに「弱さ」が見られるように思いました。

 ただ本作を、もともとそんな「やわさ」の位置にある小説だと思って読みますと、例えば太宰治の『斜陽』ばりの設定と展開が出てきたりして、哀愁を大いに刺激するところがあったりします。
 主人公の家族は、一代で大病院を作り上げた父親を中心にしつつ、その父親が亡くなった後、没落をしていくという展開の中にあります。

 この、チェーホフの『桜の園』を彷彿とさせるような設定とは、そもそも近代日本社会にどの程度あったものなんでしょうか。つまり「没落」というものが、そこいらにあった時代、今の言い方でいえば「滑り台社会」が、普通であったとも言える時代であります。

 しかし、まー、『平家物語』の冒頭を思い出すまでもなく、それは世の習いであったのでしょう。これは、つい十数年くらい前までそうであり、そしてまた再び、そんな世の中になりつつある現在です。

 作品内の没落は哀愁を漂わせますが、現実の「滑り台社会」については、なかなか厳しいものがあります。


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Last updated  2012.04.05 18:47:00
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