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2012.08.01
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カテゴリ:昭和期・転向文学

  『銀座八丁』武田麟太郎(新潮文庫)

 初めて読む作家というのは、なかなか難しいものですね。
 その作品がデビュー作で、それしかとりあえずない場合は、その作品で判断すればいいでしょうが、最近そういった読書をほとんどしていないので(つまりこのブログに取り上げるような作家ばかり読んでいますので)、すでに一定の評価がなされている作家の作品を、でも自分としては初めて読んだものの、なんかビミョーに読後感のイメージが違ったりした時は、どうすればいいんでしょうか。

 ところが先日、まだ文学史の本には名前が出てこないような新しい作家の小説を、久しぶりに読みましたら、やはりこれはこれで、判断しにくいものだということが分かりました。上記に、新人作家はその作品だけで判断すればいいみたいなことを書いたところなのに。

 ただ、デビュー作と、数作だけでも既に作品を発表した後の作品というのは、よく似ているようでかなり違いますよね、やっぱり。
 発表している数作の評判を、我々は、やはり少しは前提にして読み始めますものね。

 ……というように、ちょっとなんか、含むところのある、持って回った書き方をずるずるとしてしまったのは、要するにこういう事ですね。
 わりと評判のよい作家の本を読んだはずなのに、私としては今ひとつ感心しなかった、という。

 ……うーん、こんな場合は、どう考えればいいんでしょうか、実際の話。
 どうですか? そんなことって、ありませんか?

 さて冒頭の作品が、実は今回私にとって、そんな「違和感」の作品なんですね。
 この作品は一体できがいいんでしょうか。本書の解説文に(作家の丹羽文雄が書いていました)、本書は昭和8年に大阪東京朝日新聞の夕刊に連載されたが、第一回が出るとすぐに永井荷風が褒めたと書いてあります。

 新聞小説の第一回が出たばかりで褒めたというのは、どんなほめ方をしたか迄は書いていないので詳しくは分かりませんが、まー、考えれば、荷風先生も無責任なものだと思ってしまうのですが、そんなことないでしょうか。
 連載小説であっても、冒頭の一回分だけ読めばそれで十分わかるのだ、という感じでしょうかね。

 本当にそうなのかも知れませんね。
 ただ、もしそうだとすれば、荷風が褒めたのは、文体、つまり書かれている対象との間合いの取り方を褒めたんでしょうね。

 なるほどねー。
 ただ、わたくし、様々な方からたとえ顰蹙と軽蔑を買ったとしても、『墨東綺譚』(この漢字、ちょっと違ってますねー)は、あんまり好きじゃありません。

 もう上に書いてしまったのでそのトーンで続けますが、この作品のどこが気にくわないんでしょうかね、私は。
 いえ、逆に考えてみまして、そもそも私たちは、一体どこが気に入るとその小説を「良し」とするのでしょうか。

 ……うーん、それは千差万別でしょうねぇ。総ての作品に当てはまる法則性など、そんなに簡単にあるとは思い難いですよね。
 結局、私のケース、ということですが、一つだけ挙げるとすればこういう事でしょうか。

 (1)小説に、人間・人生が描かれていること。

 こんな風に書けば、なんだか恰好よさそうですが、でもこの条件は、多くの方からも結構賛同していただけそうですよね。一応常識的な条件だと思います。これが作品にあれば、とりあえず、私は、「許します」。
 その次を考えてみます。

 (2)文体のここちよさ。

 これは最近特に思いますね。小説にとっての文体というのは、絵画にとっての色の出し方であり、音楽にとっての音の良さですから、当たり前といえば当たり前ですが、本当に読んでいて心地よい文体ってありますよね。これが作品にあっても、とりあえず、「許します」、わたくし。
 次、三つめ。

 (3)ストーリーの面白さ。

 これを二つ目に挙げてももちろんいいんですが、でも私は大概ストーリーの「面白くない」純文学小説を読んでいますからねー。まー、この条件は3番目と言うことで。

 ところが3番目に挙げながら、実は、作品の評価を大きく左右するのはこれじゃないかという気が、(なんか矛盾するような気はしつつ)わたくし、かなりするんですがね。
 そして、ストーリーの面白さとは、結局のところ、登場人物の魅力ということではないかと思っています。さらに、登場人物とは、個々の人物だけのことじゃなく、人間関係のあり方も含め。

 さて、話が茫漠としてきましたので、冒頭の作品に収束していきたいと考えているんですがー、……うーん、困りました。
 描き方が、個人的に好みに合わず、主人公並びに描かれる人間関係に魅力を感じずとくれば、まー、それはもう、どうしようもないとは思います。

 きっと「ご縁」がなかったんですね。
 ただ、私としては、ご縁がなかったのは、本作だけだと強く思いたいわけです。
 だって、筆者の武田麟太郎という方は、近代日本文学史上、さほど多いとは思わない関西色の豊かな方(という評価をそもそも私は抱いていたわけです)ではありませんか。

 ここで、私は冒頭の困惑にぐるりと一周回って戻ってきました。
 別の作品。筆者の別の作品を、ぜひ、早急に、読みたいと、私としては、とても強く思うのでありました。


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Last updated  2012.08.01 14:59:55
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