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2013.03.31
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カテゴリ:明治期・浪漫主義

  『青春・上中下』小栗風葉(岩波文庫)

 中村光夫の書いた『風俗小説論』の冒頭で、私はなぜかずっと、小栗風葉の『青春』、小杉天外の『魔風恋風』、そして島崎藤村の『破戒』の三作品が比較分析されていると思っていました。(先に正解を申しておきますと、中村光夫は『青春』と『破戒』と、もう一作は田山花袋の『蒲団』を比較していたのでありました。)
 その頃私は『青春』をまだ読んでいなくて、一度読みたいものだと思いつつ、大阪や神戸の古書店に行ったりすると、さりげなく探したりしていました。

 そのうちに齋藤美奈子の『妊娠小説』を読みますと、ここにも『青春』が出てくるではありませんか。齋藤美奈子は、『青春』をこんな風に紹介しています。

 (略)この間の事情をよくあらわしているのは、小栗風葉『青春』(一九〇六=明治三十九)だろう。第一次ブームに先鞭をつけたとも思われる、華麗な冒険「堕胎」活劇だ。

 「華麗な『堕胎』活劇」と書いてあります。
 この後齋藤美奈子は、やはり中村光夫の『風俗小説論』に『青春』が論じられていることに触れ、さらにこんな風に続けています。

 (略)だいいちテキストそのものが、ほんとに「発掘」でもする気でないと手に入らなくなっている。
 しかし、『青春』は草の根わけても一読してみる価値がある。ちょっと頭のおかしい帝大生=関欽哉と、少々つっぱった女子学生=小野繁との恋愛を軸に進行する物語の山は、もちろん中盤、繁の妊娠と堕胎にある。


 今度は、「草の根わけても一読してみる価値がある」と書かれてあります。
 ……うーん、こんな風に書かれると、是が非でも読みたくなってくるではありませんか。
 こうして私は、まだ見ぬ『青春』に憧れ続け、私の青春も暮れていくのでありました。……。

 ……と言うわけでも、あまりありませんで、まー、何かの拍子に読めればいいかなくらいは時々思っておりましたが。
 ついでに申しますれば、時々本ブログにて触れております『筑摩書房・現代日本文学大系・97巻別巻1』におきましても、小栗風葉の作品は収録されていません。ついでのついでに、小杉天外の作品も同様に収められておりません。
 この収録基準が適切であるのかどうかは、私には分かりかねますが。

 さて冒頭の三小説ですが、そのころ私が読んでいなかったのは、実は『青春』だけではなかったんですね。勘違いしていた小杉天外の『魔風恋風』も未読でありました。
 だから冒頭の書き方はちょっと誤解を生む書き方であったのですが、読んでいたのは藤村の『破戒』だけだったんですね。

 だって普通、そうでしょー。
 たとえ大学で日本文学の一つも学ぼうかという若者であっても、この三小説があったとして、それぞれの「既読率」(この言葉は今私が作ってみました)はたぶんこんなものでしょう。

   島崎藤村『破戒』……5%
   小杉天外『魔風恋風』……0.1%
   小栗風葉『青春』……0.05%


 ……えー、もちろんお遊びでありますがー。
 お遊びであるんですが、上記の数字であります。
 現在日本中の大学で、日本文学を学んでいる学生の総数を分母として上記作品の既読率を考えてみたんですが、このあたりの数字でどんなもんでござんしょ。

 『破戒』は100人に5人が読んでいる。
 『魔風恋風』は1000人に1人が読んでいる。
 『青春』は10000人に5人が読んでいる。

 何の根拠もない数字ですがー、なんか、ちょっと面白いですね。そんなことないですか。皆様のご意見をお聞かせください。

 閑話休題致しまして(といっても、この文章はすべてが閑話でありますが)、さてわたくしは、その後、先に『魔風恋風』を読んだんですね。
 なぜって、こちらの方が古書店で安くかつすぐに入手できたからであります。
 (『魔風恋風』につきましては、本ブログで報告いたしておりますので、よろしければそちらをお読みください。)

 一方、『青春』の方ですが、これもある古書店にて私は発見したのであります。
 確かにあったんですが、……んー、何と言いますか、大阪の一軒の古書店にあったんですけれどね、それが、うーん、ちょっと高かったんですよねー、価格が。
 いえ所詮高の知れた額ではあるんですが、私としましては、大いに逡巡してしまう金額であったわけです。

 そこで、買おうか買うまいかと、その店に行くたび大いに私は迷いまして(またこの『青春』三巻セットがいっこうに売れてないんですよね。いつ行ってもまだ本棚にありました)、結局、その店では買いきれず、その後半年か一年くらい経ったでしょうか、神戸の古書店にて再発見したんですねー、それも、大阪のお店の値段の四割程度の価格で。

 嬉しかったですねー。喜びを噛みしめるようにしながら手に入れた三冊の本を持って、いさんで家に帰りました。

 ……というところで、冒頭書籍購入までの一席。
 申し訳ございませんが、残りは次回と言うことで。


 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓

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Last updated  2013.03.31 16:52:50
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