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カテゴリ:大正期・新現実主義
『羅生門・鼻・芋粥・偸盗』芥川龍之介(岩波文庫) 「羅生門」のテーマ 1.下人の心理の推移を主題にして人間のエゴイズムの様態をあばく。 2.善悪や苦悩の矛盾体である人間の現実をそのままに示し出す。 3.重苦しい現実世界からの自由な自己解放の叫び。 さて前回は、上記の「羅生門」のテーマの変遷を、発表された順番に書いたところまで行きました。 こうして三つ並べてみると、1と2の違いは微妙なものであるような気がしますよね。あんまり変わらないんじゃないか、と。 でも、その微妙な違いが、実はきっと「学術的」には大切なんでしょうね。たぶん、学問は(特に文系の学問は)そんなものです。 しかし、2と3の間には、かなり大きな違いがありそうではありませんか。 なんか、評価軸が根本から大きく変わっている気がしますよね。 作品に沿って少し具体的に言えば、1と2の評価軸は、作品世界全体をシニカルに見ている作者の姿を中心としていますが、3の評価は、作者が下人に寄り添っていることを言ってそうであります。 そうですね。実は、2と3の間に、芥川龍之介の作家像の研究が大きく進んだんですねー。これが、大きい。 さて、前回の冒頭に、そもそも私がなぜ「羅生門」を調べることになったかのきっかけが、「下人の太刀」についてであると報告しました。 下人がなぜ太刀を持っているのかについても、実はこの作家像と関係があるみたいなんですねー。 まず、それを簡単に報告します。以下の報告の中心になっているのは、前回最初に挙げた日置俊次氏の論文であります。 まず日置先生(大学の先生のようです)が述べるのはこの点です。 ・下人が太刀を持つのは、原典(『今昔物語集』)にはない設定である。 ・本文には7回「太刀」と出てきており、芥川が太刀にこだわっていることがわかる。 ・職を失い食うに困っている下人が、それでも身に付けている太刀という設定は、作品のリアリティをかなり犠牲にしていると言える。 ・つまり芥川は、太刀を下人のアイデンティティに深く結びついたものとして描いていることがわかる、と。 ところが、次に説明されるのは、そんな下人にとって大切な「太刀」が、実はどういったものかよくわからないという内容であります。 「聖柄の太刀」について、「聖柄」の説明が二つあります。 1.鮫の皮をかけずに唐木などで作った刀の柄。 2.仏具の「独鈷」や「三鈷杵」の形になっている柄。 文庫本の注釈には大体「1」が用いられているようですが、日置先生は、芥川が描こうとしたのは「2」じゃないかと説きます。 その理由は、まず、芥川が住んでいた東京の田端には近くに不動尊があり、そこの不動明王は聖柄の剣を持っているということ。(芥川は現物を見ている。) 二つ目は、『平家物語』の平清盛がこの聖柄の剣を持っていて、その時の清盛を巡る人間関係が、「羅生門」執筆直前の芥川の失恋問題を巡る人間関係と重ね合わせることができるという、……うーん、研究者とはすごいものでありますねー、実にアクロバティックに結びつけています。 さて、この「芥川の失恋問題」。 これこそが、今回冒頭の三つのテーマの、2と3の間でかなり研究され発表された内容であります。そしてそれを踏まえると、「羅生門」のテーマは、みごとに「自己解放」となるわけであります。 この「失恋問題」のいきさつを、簡潔にまとめますとこうなります。 芥川の幼馴染に吉田弥生という女性がいた。成人後始めは恋愛対象とは見ていなかったが、弥生に縁談が起こったことがきっかけで、強い恋情を抱き求婚に至る。しかし、養父母らに反対され、特に養母のフキには激しく反対され、断念する。この体験は芥川の中に大きな傷を残す。 ……うーん、芥川の一生を見ていくと、なるほど、太宰と似た部分が結構あったりしますねぇ。(もちろん太宰の方が、時代としては後になるのですが。)ポイントは両者とも女性と薬ですかねぇ。 えー、次回には、終わりたいと思います。すみません。 よろしければ、こちらでお休み下さい。↓ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2020.08.22 10:35:52
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