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近代日本文学史メジャーのマイナー

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analog純文

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2020.11.28
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  『夏の葬列』山川方夫(集英社文庫)

 今となってはかなり昔、多分例の全国展開古本チェーン店で『海岸公園』というタイトルの文庫本を買いました。新潮文庫でした。
 私に作者についての予備知識など全くありませんでしたが、タイトルが何となく気にいったんですね。海岸公園、って何か、港の見える高台みたいな感じがして、どこかロマンティックな感じがしたのでしょうか。
 ただ、その頃私は割とそんな文庫本の買い方をしていました。

 新潮文庫の場合は、裏表紙に内容の紹介文があり、それを読めば何となくわかるんですよね。いわゆる純文学系の小説だろうなって。

 ところが、実は今に至るまで私は『海岸公園』の文庫本を読んでいません。
 でもその間、作者山川方夫についてはちらちらと調べたりしました。
 雑誌「三田文学」の戦後の一時代を築いた名編集者で、江藤淳に名作『夏目漱石』を書かせたのは彼である、とか。
 その後、自らも小説を書き始めるようになり、何度か芥川賞の候補にもなり、いよいよこれからという時に交通事故で亡くなってしまった作家だと。

 しかしいつの間にか、いつか読むはずで買っておいた『海岸公園』の文庫本は、私の書棚のどこかに紛れてしまってそしてン十年、この度また例の古本屋で見つけました。
 ただしタイトルは変わっていて『夏の葬列』。集英社文庫。
 私は、あ、あの山川方夫だと知って思わず買ってしまいました。

 奥付を見ると1991年に第1刷で、私の買った文庫本は2012年の13刷です。
 あ、結構コツコツと売れ続けている作家なんだなあ(平均約2年ごとに1刷の増刷というのは、実は私は、それなりに売れているのかほとんど売れていないのか、ちょっと判断しかねるのですが)と、知りました。
 で、読んでみました。

 6篇のショートショート小説、3篇の短編小説が収録されています。「海岸公園」も約70ページ、この中では最も長い小説として入っていました。

 ショートショート小説というのは6ページから13ページくらいのお話です。
 でも、申し訳ないながら、私にはショートショート小説の面白みというのが、今一つよくわからないのですね。

 例えば芥川龍之介の『蜜柑』は、やはり6ページくらいの長さでしょう。言わずと知れた名作です。
 森鴎外の『じいさんばあさん』もそれくらいの長さじゃないでしょうか。やはり名作です。
 いえ、そんな大文豪の作品と比べるのはルール違反じゃないかという気はします。そうかもしれません。

 それに考えてみれば、芥川の『蜜柑』も鴎外の『じいさんばあさん』も、そもそもショートショート小説とは言いませんわね。(言わないでしょう?)
 とすると、ショートショート小説という言い方の中に、すでにある種の小説のジャンルを示す属性があるのかもしれませんね。
 私はそれに、ちょっと馴染んでいないのかもしれません。

 ただ、この山川方夫のショートショートは、全体に、いかにも暗いです。(何もわかっていないながら、ショートショートにこの暗さはいかがなものか、と。)
 そしてこの暗さは、次の3篇の短編小説にもそのままつながっています。

 それと、なんと言いますか、この一冊の文庫本に収められた作品からだけで判断するのは軽率ではないかとも思いますが、ここに収められている作品群は1960年前後に書かれたものです。
 今から半世紀くらい前の作品で、そして、えー、まー、ちょっと、古臭い感じがしないかな、と。
 (私は、我が家の書棚をひっくり返して、どこかに雲隠れしてしまった新潮文庫を探し出して、せめてもう一冊読んでから感想を述べるべきだったかもしれませんが。)

 いえ、これは私の読み違いなのかもしれません。(ただ、こういうことって結構あるように思います。つまり明治文学は古臭く感じず、半世紀くらい前の作品に古臭さを感じるという感覚のことです。)

 家族の在り方の葛藤とか、十代の男子のシニカルな内面とかが描かれていますが、そしてそれらのテーマは確かに古今東西不変のものでありましょうが、しかしそのテーマを小説として書くというのは、やはり特別な工夫が必要だと思います。

 作品世界の背景にある風俗のさばき方のせいでしょうか。
 いえそんな、時代の風俗のせいというよりは、何気ない空気のような日常の感覚でありながら、しかし微妙に時の中で違ってきているもの、その違和感を、なにか皮膚のささくれのように感じている気がします。
 それは例えてみれば、テレビ番組で、30年~40年くらい前の街行く男女を見た時の感じ。……。

 本文庫本の解説に、山川の作品は、梶井基次郎や中島敦のように、マイナーポエットとして今後も長く読み継がれていくのではないかとありましたが、これも、うーん、どうでしょうか。完成度と言ってしまうと、あまりに身も蓋もない気はしますが。

 でも、やはり長く読みづがれるかもしれません。
 今回の私の一冊だけを取り上げた読書報告としては、申し訳ないながら、なかなかそうは読めませんでしたが。難しいものです。

 付記・あの『海岸公園』の新潮文庫はどうなっただろうと、わたくしその後気になりまして、意を決してホコリまみれになりながら書棚をひっり返してみましたら、出てきました。
 驚いたのは、新潮文庫『海岸公園』に収録されている短編小説は6篇で、そのうち「海岸公園」以外は集英社文庫版と全く異なった短編小説だったことです。

 さらに、裏表紙の裏に同作家の新潮文庫作品が書いてあって、もう一冊『愛のごとく』という文庫本が出ていたことを知りました。
 なるほど、確かにこの度読んだ集英社文庫の解説にも、『山川方夫全集』全5巻という記載がありましたが。
 (しかし全集全5巻というのは、もちろん1巻のページ数にもよりますが、梶井基次郎や中島敦の全集より多いではありませんか。こちらは共に筑摩出版で全3巻ですのに。)


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Last updated  2020.11.28 12:13:02
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