『愛とつよがり』
暗くした自分の部屋で、いつも夢に見ていた愛しい彼の体を、やっとこの腕の中に抱いていた。見ているかぎりでは、平然としているように思っていたけど、触れてみると彼の皮膚からは、トクトクと早く心臓が脈うっているのが伝わっている。「なんか俺、すげーうれしんだけど。」「・・・なにが?」「お前もちゃんとドキドキしてくれてんのな。」「・・・あたりまえだよ。」彼の声がいろっぽくかすれている。まわした俺の腕をつかむ彼の手には、ぎこちなく力がはいっていて、かすかに震えていた。「そんな、怖がんなくても無理って言ってくれていいから。」なるべく穏やかにいいながら、俺は彼の髪を確かめるようになでている。「無理じゃないから、全然。」少しだけいつもの調子にもどって彼がそういったので、「いや、だから、無理になってきたら言って?それまではちゃんと続けるから。」ホントはそんな自信なんてなかったけど、強がる彼のことがかわいそうになってきて、俺は途中でも我慢しようと思ったのだった。なのに、「夢と同じがいい。」彼のものとは思えないくらい甘えた声が、俺の期待を煽る。暗くて表情が読み取れないのがよけいに、想像で彼の色気を増殖させていっていた。「・・・だけどさ、お前・・。」冷静さをとりもどすためにも、俺は、自分にも諭すようにして言った。「こんなに震えられたら俺、なんにもできねーよ・・。」たしかに今までだって、機会がなかったわけじゃない。その度にやはり待ってきたのだ。彼のことをとても大切にしたかった。「震えないようにするから。」彼は俺の着ているパジャマを握り締めて、震えをおさめようとしながら俺に身をまかせている。「いや、そうじゃなくて・・。」どういっていいのかわからない。当然俺はいろんなことしたいんだけど、彼に我慢をさせてまで、いそぎたいわけじゃなかった。「じゃあ、キスだけしよ。」俺が夢で彼にしていることを、現実に出来たとしたら、こんなにうれしいことはないけど、ゆっくり時間をかけて、彼に恐怖などあたえずにできれば気持ちいいって思ってもらえるようにしたい。「震えるのがおさまったら、そしたらキスだけな。」ひとつの答えがわかったような気になって、俺は自分の言葉に安心した。「また、そんなこと言って・・・。」彼が不満そうだったので、「お前、キスのこと甘くみてんのな。」といって、そっと指で彼の唇にさわる。「舐めて。」俺のこと困らせる彼に意地悪く言ってみた。「俺のだと思って舐めてみて?」無意識でかわいいことばかりいう彼が悪い。指先に触れる彼の歯がすぐに開いて、おそるおそる出てきた舌が少し動いた。もうすでに夢と同じに、彼は俺のゆうことを聞いてくれている。俺は二本の指を、そのままゆっくり彼の口の中にさしこんで、粘膜をこころゆくまで触った。まるでキスしているみたいに。「ん・・。」嫌がることも、抵抗もなく。受け止めてくれている彼の息使いが荒くなってく。俺は指に受ける感覚を頭の中で変換してしまっている。ダイレクトにその場所にしてもらっているような錯覚がおこる。俺ばかりがそんなことではいけないような気がしたので、指を退きながら、唇にかえて、俺の舌で彼に充分におかえしをした。やっと”キス”をすることが出来た。彼のつらそうな息遣いが気になったので、手をのばしてパッと明かりをつけると。一瞬まぶしそうにした彼の瞳から涙が溢れていた。「・・・こんなんで泣いてんの?」ちゃんと触れることができたからなのか余裕の安心感がある。「うれし涙だよ・・・。」おおった手のひらの隙間から見える、彼のぐちゃぐちゃになっている顔は、俺のものなのだと思うとよけいに愛しかった。 →