『ぬいぐるみのくま』
はやく拾わなきゃ。早く、早く。明るくて広いその場所には、点々と、あたしが欲しいものがたくさん落ちている。いろとりどりに、楽しそうなものやかわいいもの、ただ、白いゆかに、あっちにもこっちにも。あたしは年甲斐もなく、派手な柄のパジャマを着て、髪に王冠の飾りをつけながら、両手いっぱいに、ほしいおもちゃを抱え込んでいた。駄目だ、もう持てないや。あとひとつと思って拾うと、腕からあふれてひとつ落とした。今度は違うのを拾うと、またひとつ落としてしまう。まだまだたくさんあるのに、見渡すかぎり、先のほうはかすんで見えないくらいなのに、あたしはもうそれ以上は手に入らないのだと思うと、欲張って手にした品物を抱きしめて泣いた。「どうしたの?」いつのまにかそばにいた彼に事情を説明する。彼は要領を得ないあたしの言葉を、最後まで根気強く聞いてくれた。そして、ニコニコ笑った顔のままで、ちゅっ、とあたしの頬にキスをした。視界の端っこのほうで、遠くにかすんでいたものの一部が消えてなくなった。どういうことだろうと考えていると、今度は反対の頬に、おでこに、そして鼻先に、彼があたしにキスをするたびに、床に点在しているおもちゃがどんどん消えていく。「本当に欲しいものはどれ?」両手に抱えていた、たくさんの物でさえも、今は数えられるほどしか残っていなかった。「・・・これ。」あたしはその中から一番大きいくまのぬいぐるみを選ぶと、抱きしめてそういった。すると、他のものがまた消えてしまった。「そう。」余計なものがなくなってしまったからなのか、彼はぬいぐるみごとあたしを抱きしめて、それからゆっくりと唇を重ねる。なにをそんなに欲しがっていたんだろう。あたしの胸にあるぬいぐるみも、本当はいらないのかもしれない。 →