『嘘つきな彼女』選べないkureha(上)
夕暮れの帰り道。ふと、目を留めたコンビニの中にクレハの姿を見つけた。真剣に商品棚を見つめる瞳。駅前なのでわりと人がいるせいか、俺には気がつかない。家の中にいるクレハは、年下の俺にまで手をかけさせるほどだらしがないけれど、ピシッとしたスーツ姿は、こんな場所で見るとよけいに綺麗に見えた。(俺なんかがよく相手にしてもらってるよなぁ)まだ学生の俺とは違い、クレハはれっきとした社会人で、しかもかなりの成績優秀。あの若さでも、いろんなところから引き抜きがかかるほど優秀な営業技術を持っている。俺は去年、少しだけ雑用のバイトをしにいった会社でクレハと出会った。自分より背の高い部下を何人も引き連れて出かける彼女を、何度憧れの眼差しをむけて見送ったことだろう。(・・・何やってるんだ。)しばらくコンビニの前で待っていたけど、その間も彼女は身動きをしないで一点を見つめている。なにか買いづらいものでも買おうとしているんだろうか。(でも、そんなのは諌山さんの部屋にたくさんあるしな・・)買いづらいものがひとつしか思い浮かばなかった俺は、なかなか出てこないクレハを残して、とりあえず隣のレンタル店によって時間をつぶすことにした。そして、タイミング悪く知り合いに出会ってしまった俺がそいつと話し込んでいる間に、結局クレハはいなくなっていた。(お、今日もいる。)次の日もまた彼女はコンビニの同じ場所にいた。服装が違うだけで、昨日とまったく同じポーズだった。声をかけてもいいのだろうけど、何故か俺はとっさに隠れてしまい、今日は彼女が立ち去るまでそのまま見届けてみる。後から彼女のいた場所を確認しにいくと、そこは衛生用品ではなくて、普通にお菓子が並んでいる棚のところだった。(でも、クレハ甘いもの苦手だったよな・・・)スナック菓子なども胃がもたれたり手が汚れたりするのを嫌って、自分からはあまり食べようとしない。いったいなんなんだろう。若干つかみどころのない彼女の今までの出来事なども、俺は心の中で照らしあわせて、彼女のささいな行動でも、ものすごく気になってしまうのだ。夜のベットの中、諌山さんがクレハに言った。「なんか、あったのか?」少しぼんやりしていたクレハは、急に目に生気を取り戻したようになって「な・・なにが?」あきらかな動揺が伺える。俺もクレハのコンビニのことが気になっていたので、彼女を冷静に見ていた。そしてシンも、「そうだよ、クレハこの頃、またごはん食べてないだろ?」全員が動きを止めて、彼女に注目している。半分脱がされかけて諌山さんに抱っこされているクレハは少し戸惑った顔をして、なんと返事してよいのやら考えているようだった。「体、疲れてるのか?最近集中してないだろう?」諌山さんの低音の声が優しく彼女に問いかける。「・・そんなこと・・ないけど・・。」見ているだけでも、頭の中がグルグルしているのがわかった。彼女は隠し事するのはあまり上手ではない。「ちゃんと言ってくれないと駄目だろ?」シンもなるだけ優しくクレハの髪に触りながら言っている。二人に挟まれている彼女はそーっと俺の顔を見て、のそのそとその場から抜け出し、近くまでやってくると無言で抱きついてきた。「クレハ・・・。」シンの呼びかけにも、顔を伏せたままで「わかんない・・。」精一杯考えているのだろう。俺はなにも聞かなかったので逃げてきたのかな。シンのちょっとムッしたような顔と、諌山さんの心配そうな視線がこっちをみていた。「クレハは何か欲しいものがあるんじゃない?」いい機会なので俺も遠慮なく質問してみる。「ここのところコンビニでよく見かけるんだけど。」俺のその言葉を聞いたとたんに、彼女の体は固まってみるみるうちに赤くなった。「なにクレハ、やっぱりなんかあるんだ。」シンがため息をつく。「なんだ?いいづらいことなのか?」諌山さんもそばまでやってくる。なにか重大なことではなければいいと、なさけなくも彼女に夢中な男3人が心配していた。 →