長安牡丹花異聞
本屋で、まずタイトルで手にとってしまいました(^^;;裏表紙には「妖美と機知と冒険、雄大華麗な中国奇想小説」・・・って、どんなんでしょ(汗)全6篇入った中国歴史物のお短編集です「長安牡丹花異聞」零落した名家の子・黄良は、病の母に食べさせる季節外れの桃を手に入れるため、街角で牡丹の鉢を売ろうとする。貧弱な牡丹にしては法外な値をつけ、客として現れた男・崔融に一笑に付されるが、この牡丹には隠された秘密があった。その秘密を知った崔融は、それを利用して、大金をせしめる計画を思いつく。黄良と同様、崔融も、酒場の舞姫・小蘭の身請けのため、大金を必要としていた───。牡丹の隠された秘密、小蘭の正体、秘密の牡丹を手に入れようと暗躍する狡猾な宦官など、お膳立てはばっちりです。欲を言えば、最後方に出てくる小蘭の本性については、ちょっと蛇足的な感じがしました。「累卵」捕物名人として名高い湖州の蘇無名は、財務報告で都に上った折に、旧知から懇願され、都を荒らしまわる盗賊を捕らえるために奇抜な一計を案ずる。養い子の少女・謝玉瑛の仇かもしれぬ盗賊を捕らえるために無名が取った作戦とは───。一見、昼行灯風の捕物名人なんて、日本の時代劇にでも出てきそうなキャラですね。最後の玉瑛の心境は如何に?「チーティング」郷試(科挙の地方試験)の正考官(試験監督)となった主人の命令で、大家の子息のカンニングを暴くため、挙子(郷試受験資格者)の身分で貢院(試験会場)に潜入した范修は、同じく挙子として郷試に望む大家の秘書を勤める男・柳昌と出会う。カンニングと為の虎の巻を隠しているのは柳昌であると気づく范修。虎の巻は一体どのように持ち込まれたのか───。Cheating-欺く・騙す。という意味なんですね。試験の不正も表すそうです。(知らなかった・・・)柳昌と范修の過去との結びつきは?「殿(しんがり)」安禄山に追われ、皇帝・玄宗と楊貴妃が都を落ちる最中、楊貴妃に思いを寄せる遠縁の青年・楊健は、宮殿で飼育されていた駱駝「緑耳」に騎乗し、宮女たちと楊貴妃の後を追う。彼らは無事に辿りつけるのか───。って、書くとこの話の主役は楊健みたいですが、一人称の主は駱駝の緑耳ですから・・・(笑)「虞良仁膏奇譚(ぐらじんこうきたん)」王の正夫人の病をネタに一旗挙げようと、うだつの上がらない文書官・荀育は万能薬・虞良仁膏(ぐらじんこう)を精製する医師の話を、正夫人の父である令尹(宰相のような役職)に吹き込む。万事うまくいって、医師を都へ連れ帰るべく、医師の元を訪れたが、医師は亡くなり、その息子・妥矯が秘伝を受け継いでいた。しかし、妥矯には秘伝の最後の一品が見出せずにいた。不安ながらも荀育は妥矯を都に連れ帰り、正夫人の治療に当たる。やがて、妥矯は最後の一品を見出す。一体その正体は───。最後の一品。読んでいるうちにうすうす感づくかもしれませんが、それにしても荀育の運命が・・・(笑)です。最後の付記がそういう意味で可笑しさをいっそう誘います。「梨花雪」李徳秀は唐の太宗の遠縁として辺境の国々を回るうちに「高地の国」の王と親しくなり、皇女の降嫁の取り持ちをすることなる。結果、妹の如く親しく育ち、淡い気持ちを抱いていた美しい公主・金鈴が、思いも寄らない形で降嫁することとなり、激しい悔悟の念にとらわれる。やがて、その金鈴から、不吉な思いをにじませる手紙が届く。「高地の国」の金鈴の身に一体何が───。「高地の国」の民の尊崇の的となり、死後は女神として崇められた金鈴公主を巡る、ちょっと切ない物語です。---------今まで森福都作品は短篇を1,2本読んだだけでした。今回6本の短篇を読んでみて結構読みやすかったです。個人的には一人称形式はあまり得意でないので(特に駱駝!)そうじゃないほうが良かったかな。今回は、表題の「長安牡丹花異聞」より「梨花雪」が良かったかな?でも「長安牡丹花異聞」は松本清張賞受賞作なんですよね・・・(^^;;同じ年に「ホワイトハート」の方でも受賞って、極端な受賞歴ですなあ・・・『長安牡丹花異聞』森福都・著文春文庫