去る人
「某月某日付退学」と教頭が黒板に書き込む。一年以上不登校が続いていた生徒だった。こういう生徒はたくさんいて、どのクラスにも休学者がいる。ただ、この生徒は今まで休学の手続きは取らなかった。つまり、来る様子もないのにその子の両親は毎月学費を払い続けた。うちの学校は来る見込みのない生徒の処遇をはっきりさせたがる傾向がある。休みが長く続いたり休学が長引く生徒がいると、その生徒の親を呼んで今後の決断を迫る。つまり、退学をほのめかすのだ。「はっきりしてくれないとこっちが困るよ」とはある教師の言葉。確かに、なかなか来ない生徒がいると、業務上いろいろ面倒なことが多いのは確かだ。それに、退学しても同じ学校に復学するならいつでも復学できるから、退学も長期の休学も学校側から見ればほとんど同じとなる。だが、生徒の側から見ればどうだろう。不登校が続いていたり引きこもりの生徒の多くは、家や自分の部屋以外に居場所がないと思っている生徒が多いのではないだろうか。そんな生徒にとって、長いこと行っていなくても学校との繋がりが切れていないということが、外へ一歩を踏み出す切っ掛けにならないだろうか。そんな思いがあるから、親も休学を続けたり休学の手続きすら取らずにいつでも学校に行けるようにしているのではないだろうか。今日は生徒は顔を見せず、ご両親だけが来られた。手続きが終わって挨拶をする両親は苦渋に満ちていた。対応した教師が職員室に戻っていたときに見せた晴れ晴れとした表情をしていた。今日の生徒は中学時代も不登校になり、定時制に来た。その子が定時制に来たとき、何を思ったのだろうか。そして長く行っていない学校を退学すると決まったとき、何を思ったのだろうか。二度目の退学が彼の心の傷とならないこと、そして外へ出る一歩になる出会いがあることを願う。だが、これから先、その子に僕が関わることはないだろう。僕は眺めることしかできない。