成長
初夏のような日差しに五分咲きの桜が光る。そんな少しずれた風景の中を、真新しい制服に身を包んだ子が母親とおぼしき女性と一緒に歩いてるのを見かけた。まだ体にしっくり来ていないのか、母親の横を歩くその子の動きは少しぎこちなく、何となく子どもの頃、母親に服を着せてもらったら長袖のシャツの袖がしわを寄せてたくし上がってしまい、服の中に手を突っ込んでシャツのたるみを直そうとするのだけどうまくいかない、そんな違和感を思い出していた。その子が少し恥ずかしそうな、歯がゆそうなぎこちない笑みを浮かべながら、僕の横を通り過ぎる。たぶんあの子も、衣替えの季節を迎える前に、自分でも気がつかないうちに制服が体にフィットするようになり、あの制服を着ているのが自然になっているんだろう。そう言えば、僕もいつの間にか、何枚重ね着しても一番下に着たシャツがたくし上がって不快な思いをすることもなくなり、たくし上がっても簡単に直せるようになった。初夏のような日差しの中、桜が季節を追いかけるように花開いていく。人も自然も、いろんなズレに出会ってもそれを修正していく力を持っている。ズレたものを直していくこと。それを「成長」というのかもしれない。歩いていると少し汗ばんできて、僕は上着を脱いだ。新しい季節の風が、僕の中を通り過ぎていく。