JET STREAM ── ノスタルジア・スケッチ XX ──
二つの針が天を指し、昨日と今日が出会う頃。ふと手を止め、コンポのチューナーに手が伸びることが、今もある。いつも近くにいてくれる子がいた。別に示し合わせたわけでもないのに、気がつくと彼女は近くにいてくれて、僕もさりげなく彼女のそばに近づいた。見えないときには周りに気取られないように彼女の姿を目で追い、遠くにいる彼女と視線が合い互いに照れ笑いを浮かべたこともあった。お互いの気持ちを確かめたことはない。気恥ずかしさとこの関係を壊すのではないかという臆病さ、そしてこの微かに体温を感じられるこの距離に、若さ特有のナルシズムの混じった心地よさを感じていたからかもしれない。言葉にしなくとも互いの気持ちは分かり合っている。僕はそう思っていたし、彼女もそう思っていると思っていた。あれは何の話をしていたときだったろう。ふいにラジオの深夜放送は何が好きかと彼女が聞いてきた。幾つかの番組を挙げた後で、「あと、ジェットストリームも聞いてるよ」というと、彼女の顔がぱあっと明るくなった。「私も大好き! 毎晩聞いてから寝てるんだ」それを聞いて恥ずかしくなった。僕は時々しか聞いていなかったから。その日から僕の生活に新しい習慣が加わった。深夜十二時近くなるとラジオをつけFMにダイアルを合わせ、ミスターロンリーのメロディが聞こえてくると、それからの一時間はじっと音楽に身をゆだねる。同じ時間に彼女と同じ曲を聴いている。僕はラジオの音楽に耳を澄ませ、音楽の向こうに彼女の気配を感じていた。心地よい音楽と共に城達也が語る夜の街角、秋の陽射しの中の公園、夕焼けに染まる南の夏の海辺。それを聞きながらまだ見ぬ異国の風景を頭に描き、見知らぬ土地を彼女と歩く様を夢想し眠りについた。笑わば笑え。十七歳だったのだ。