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2020年01月08日
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カテゴリ:読書と自分と
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ミステリ・オペラ(下) 宿命城殺人事件 (ハヤカワ文庫) 
ミステリ・オペラ(上) 宿命城殺人事件 (ハヤカワ文庫)

山田正紀さんの『ミステリオペラ』は、7月後半からはじめて10月中ごろに読みきった。
第2回「本格ミステリ大賞」(2002年)の受賞作。
上下併せて、1000ページを超える大作。
自分の記憶の中では、山田さんはSF作家としてデビューして、SF風味の冒険小説も手掛ける作家さん。ミステリの本格とは、ちょっと馴じまない気がする。

しかし、ミステリというジャンルが長いときを経たために、「新機軸」とか「この手があったか」とかの惹句がありがたがられている21世紀。
山田さんの個性をも、ミステリ業界は本格派として呑み込んでしまうのか、と、傍観者的な興味が先にたって読み始めました。

実は、悪食対決です。
少女マンガだろうが、時代劇だろうが、戦記ものだろうが、どんなジャンルでも呑みこんできたSFというジャンルを、老練のミステリ業界がまるめこんで味方につけてしまうのか、オロチ対ガマの化け物みたいな、とてもおおきな対決のように思えたもので。
たしか、40年も前に読んだ「アシモフのミステリ世界」とかいう本の解説に、SFのジャンルでミステリは成立するのか、という疑問が呈されていた。たとえば、タイムマシンが普及した時代に、アリバイの概念は存在するのか、とか。

「不思議の成立と否定」、ミステリとSFは相反する方向性をもっているように思われます。
ありえないはずのものを、あるように見せるのがSF。
トリックを排除して、事実を洗い出すのがミステリ。
社会一般の常識のうえで共有されるミステリの謎解きと、
常識にひと味足すことで興味を膨らませるSFの開放感とは、
はじめから違うテーブルに乗っかっているはず。

「ミステリオペラ」の前半では、伝奇小説風の不思議な世界を出現させる。
南京事変ののちの満州国という、混沌の状況。なにかが起こっても、しかたのないような雰囲気。
SF作家としての仕事を果たしたのちに、幻想のタネを洗い出して現実の世界へ引き戻す、
手のひらを返したような終盤。

この本では「消去法の推理」が使われていた。
不可解な状況を合理的に説明するには、この方法しかありえない。
なので、この方法でなされたに違いない。という論法。
物証でも、自供でもなく、推論に基づく犯人の絞り込み。
指紋も足跡もないのに、その時刻にそのエリアにいた人のなかに犯人はいる。という前提。
安倍首相の得意とするところの「そんな非常識なことするはずはないじゃないですか。」と同じかな。
役人は誠実に職務を遂行するのが務めだから、当然にそうしているし、
政治家は国民のためにはたらく者だから、その行為はみんな国民のためになっている。
検証されることもなく、物証を提示することもなく、あるべきとおりに存在しているはずという、
うすっぺらな過信。
本格から縁遠いのか、本格に新しい軸が生まれたのか。
「ミステリの本格」ってのが、わからなくなりました。

作中の右翼の大物は、歴史解釈を捻じ曲げることに躊躇もなく、
神代の遺物を確実な根拠もなく、天照大御神に関連する物品としてみたり、
オペラ「魔笛」を、語族協和の正当化に使用したりと、
われ思うゆえに、解釈あり。
主観と論法によって、歴史も社会も変容させられてしまってあたりまえ。
「真実よりも思想」というのは、戦前にはあたりまえにあったことに。

こまかいことは、まあいいけどね。
でも、屋上の窓の鍵が、屋内からは操作できず、
屋外からのみ施錠も開錠もできるというあたり。
病み上がりの作者が、意識の回復とともに書き上げたという大作。
幻想を含む物語と、合理的な物語と、
読者はどちらに惹かれますか、との問を、投げ込まれた本でした。





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最終更新日  2020年01月08日 20時40分08秒
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