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カテゴリ:読書と自分と
本年2月から8月までかかって、無事に読了。
読書感想文の課題がこの本だったなら、まぁ、とんでもないことになりそうです。 あらすじをまとめるとしたら「蟻の一穴のことわざのように・・・」となるのでしょうが、それではこの本の楽しみの何十分の一しか語れない。 戦後のある時期から、この本の書かれた昭和のある時期までに、起きたていたいくつかの困った事案に、作者なりのとっぴな回答で理屈と小理屈で迎撃する前半と中盤は、ユートピアを描く物語のようです。 そこにある理屈はまぁ、ただの正論なのですが、小理屈にはひねくれものの昭和の小市民が、ヤンヤの喝采をおくるであろう小気味の良さ。既存政党も反体制派も、もっと頭を使えばよかったのにね、と、揶揄する気持ちに、なんとも幸せな解放感を感じました。 後半部分は、顔も影もみえない「体制」って悪玉に、じわりじわりと包囲網を狭められてゆく気持ちの悪さと閉塞感。「理想」や「正論」には、絶対的な力をもった抵抗勢力が恒に存在していて、姿も明確な意思も持たないのに、力押しに押しつぶしてくる。そして、一瞬の油断が、彼我の拮抗を押し流す。 単なる空論ではなくて、「経済」と「人命」を味方につけてすら。 のだけれども、一縷の魂が、不屈の捨て台詞を残すあたり、「理想」ってヤツもなかなかにしぶといなぁ、と、そんな感想が最後に残りました。 「不屈」というテーマを描くには、「絶望」という舞台を整えなければならず、そのためには「理想」の存在を確信しなければならないわけで、この長編が、これだけの紙面を要したことに納得する気持ちはあるのですが、うーん、半分くらいでもできたのかもしれないとも思われます。 コロナに関して激昂する東京都医師会会長の姿や、中央から関心を払われない地方の一自治体の状況などは、「今だからこそ」ではなく、「今も昔もあさっても」の問題なのだと、感じさせられました。 当時はなかった「ふるさと納税」制度が、井上さんにアレンジされたなら、とてつもないモノになっていたかもしれません。 あまりの長さにもし、前半と中盤で投げ出してしまうひとがあったとしたら、「まてまてまてまて、もったいないぞ」と、真意から声をかけたいと思います。 吉里吉里人(上巻)改版 (新潮文庫) [ 井上ひさし ] 吉里吉里人(中巻)改版 (新潮文庫) [ 井上ひさし ] 吉里吉里人(下巻)改版 (新潮文庫) [ 井上ひさし ] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021年08月21日 16時13分49秒
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