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カテゴリ:美術館日記
朝、ベッドの中で「美術館へ行こう」と決め、窓を開けたら昨日までよりずいぶんあたたかかった。
春のワンピースに上着を羽織って、いそいそと出かける。 駅までの道、橋の下に白サギがいて、水辺で魚を探していた。 桜はつぼみをふくらませ、こぶしは白い花を次々ひらいている。 ああ、春が来たんだ。 歩きながらふと、いつか嵐山で見た、桜のことを思い出す。 あずき色の阪急電車が止まって、扉がひらくと、それを待っていたように、花びらがはらはら吹き込んでくるのだった。 桜のころになると思い出す、あの気持ち。 わたしが幸福そのものだと頑なに信じていたあの絶望は、3年のあいだに、花びらのひとひらみたいにどこかへ飛んで行ってしまって、今はただ、ほほえんで抱きしめたくなるような残り香だけ、手のひらに残っている。 上野へ。 オルセー美術館展を見るつもりで、がんばって並んで入ったのだけど、とても絵を見るような環境ではない。 美術館が、満員電車状態。 祝日だし、会期終了間際なので、仕方がない。 モネの「ルーアン大聖堂」だけしっかり目に焼き付けて、脱出。 小林秀雄じゃないけど、絵画は静かな場所で、じっと向き合ってみるものだな。 気を取り直して、三番町、山種美術館。 九段下の駅に降り立ったら、桜を待つ千鳥ヶ淵に春の風がさっとふいて、せいせいする。 胸のすくような思い。 山種美術館では毎年、この季節に桜の展覧会をひらく。 速水御舟の、石田武の、東山魁夷の、桜。 うっとりと見とれる。見とれるひとたちは皆、知らずに口もとがほころんでいる。 去年も見た桜なのに、今年もまた、長いこと足を止めて、色に心を動かしていたくなる。 そういう展覧会。 絵はがきをたくさん、持っているのにまた、買ってしまう。 桜のお香も。しっとりと清潔ないい香りだったので。 帰りみち、何やら雰囲気のいいギャラリーを見つける。 窓から中をのぞくと、ずらりと並んだ「北原白秋全集」の背表紙。 我を忘れ、吸い込まれるように中へ。 魅力的な書棚。 あ、この本棚、知ってる。 どこで見たんだっけ? そうだ。いつかテレビで見た、松岡正剛さんの番組。 BGMに菊地さんの「京マチ子の夜」が流れていて。 あのとき、松岡さんのいた部屋、ここだ。 どきどきして、書斎のようになっているコーナーへ足を踏み入れようとするも「staff only」の注意書きに行く手を阻まれる。無念! 帰ってから調べてみたら、このギャラリーの棚は、松岡さんがつくってるらしい。 道理で。ただごとじゃない本の並びと思ったら。 そういえば、「千夜千冊」や「ISIS編集学校」のパンフレットも並んでいた。 ああ、忘れていた千夜千冊熱、再燃してきちゃったよー。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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