木々との対話
朝夕の風に、秋の気配を感じる季節になりました。皆さま、いかがお過ごしですか?わが家は3月に次男が生まれ、4人家族になりました。8月にまた引っ越しをして、今度は坂の多い、都会の街に住んでいます。5歳になった長男はすっかりお兄ちゃんらしく成長して、一生けんめい弟をかわいがってくれています。6ヶ月になった次男は寝返りを覚え、にこにこ笑いながら布団の上を転がり回っています。この街には、水平線に沈む夕日や、本物の森はないけれど、私の大好きな本の森(本屋さん)がたくさんあるので、疲れたときに駆け込む場所には事欠きません。どこに住んでも、その場所が自分にとっての天国だと思って暮らしたい。雨の日曜日、家族がひとりの時間をプレゼントしてくれたので、東京都美術館に展覧会を見に行きました。世界中の素晴らしい絵や彫刻を見ることができるのも、都会の好きなところのひとつ。朝一番に到着したのに館内が混んでいて、ゆっくり見られないかなあと思ったのですが、お客さんは皆「ポンピドゥー・センター」展の方へ流れていき、私が目指していた「木々との対話」展はほとんど貸し切り。会場に着いたら、木の香りがふわっとして、本当に森に来たみたい。最初に土屋仁応さんの展示室に入って、息を呑みました。木で彫られた白い動物たちは何だか生きているみたいで、触れたらぬくもりが伝わってきそう。一部を除き写真を撮ってもOKという展覧会だったので、気になった子たちをカメラに収め、図録も買って帰ってきました。会期終了までに、時間を作れたらもう一度見に行きたい。出産、引っ越しと慌ただしい毎日の中で、少し先の未来に気をとられて、私はまた「いま、ここ」に生きることを忘れそうになっていたなあと思う。今、私の傘に当たる雨粒の音や、秋の虫が鳴く声に耳を澄ますこと。子どもと一緒にいるときも、「後でね」「ちょっと待ってね」「今忙しいから」を連発しているけど、本当は、子どもの顔を見て話を聞くより大事なことなんて、めったにないはずなんだ。家に帰ってから、「お母さん一緒に遊ぼう」と子どもが言うので、洗濯物のかごをいったん置いて床に座り、子どもがレゴブロックで作った車をよく見てみた。いろんな色や形を組み合わせて、ロボットに変形することもできるという大きな車を作っている。いつの間に、こんなに上手にブロックで遊べるようになったんだろう。ついこの間まで、「お母さん車作って」と言っていたはずなのに。私が未来ばかり見て、子どもの「いま」の目線でものを見ることを忘れている間に、子どもと一緒にいられる時間はあっという間に過ぎて、どんなに懐かしんでも二度と戻ってはこないのだ。「わあ、かっこいい車だね。ロボットに変形するところも見たいな」と言ったら、子どもが私をじっと見て、最近見たことがないような嬉しそうな顔で、笑った。