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カテゴリ:美術館日記
美術館が好き。 絵を見るのはもちろん、そもそも、美術館という種類の建物の中で過ごすことが好きなのだと思う。 話題の展覧会で余程混んでいるときは別として、いつおとずれても、美術館には均質な静けさと緊張が満ちている。 温度や湿度が一定なのは作品を護るためだが、結果的に、人間にとっても安らげる環境が保たれている。 わたしたちはふだん、さまざまな刺激(音や、文字や、光)の中で暮らしているが、美術館には基本的に、たった一種類の刺激しかない。 だから自然に、心が内へむかう。そういうところも好き。 展示室に足を踏み入れ、絵と向きあう。 好きな絵の前に立って(ソファがあれば座って)ぼうっとしていると、あるとき、絵と通じあったような、ふしぎな気持ちになることがある。 色彩を体の中にとりこみ、骨や筋肉や毛細血管のすみずみにひびかせて、その音色を楽しむ。 色がわたしを動かし、わたしが色の中でゆらぐ。 一枚の絵の前にじっとしたまま、けれど心は時間も道のりも越えて、どこまでも旅してゆく。 人の心に感受性や想像力の畑があるとしたら、そのかわいた土に、大きなじょうろでじゃぶじゃぶ水をかけるような感じ。 水はふんだんにあり、いくら汲み上げてもなくなることはない。 よい時間をすごした後、腰を落ち着けて余韻にひたることのできるカフェなどあれば、天国。 と言って思い出すのはブリヂストン美術館のカフェ「ジョルジェット」。 店の名前は、ルノワールの絵画からきている。 青いドレスに身をつつみ、ふっくらしたばら色の頬をもつ、青い目のジョルジェットお嬢ちゃんは美術館のアイドルだ。 カフェの名物はサンドイッチ。11時の開店で、だいたいお昼すぎには売り切れてしまう。 朝ねぼうせずに何とか間に合って注文すると、白いお皿に、画家のパレットみたいな色彩のサンドイッチが盛られてくる。 それをひとつずつつまんで、天井の高い、白くてあかるい店のなかで食べる。 紅茶をたのむとポットで運んできてくれて、店員さんがいつもこう言うのだ。 「茶葉は抜いてありますので、どうぞごゆっくりお召し上がりください」 それでお客は紅茶がしぶくなる心配もなく、のびのびと長居することができる。 開館から閉館まで、一日じゅうでも展示室とカフェを行ったり来たりしてすごせる。大好きな場所。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.02.08 21:15:06
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