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カテゴリ:美術館日記
かねてからの念願だった、川村記念美術館へ。 お楽しみのコレクションを鑑賞する前に、広大な庭園を歩いて秋を探す。 一年に二回、花がひらくというジュウガツザクラ。 川村記念美術館は、まず箱ができてそこに絵を飾るのではなく、 最初に絵があって、その絵を美しく見せるために展示室がある、 という発想の美術館なので、せま苦しさや不自然さをまったく感じずに鑑賞できる。 レンブラントの、帽子を被った男の絵だって、都心にあるふつうの美術館なら、わたしはうっかり見のがしてしまったかもしれない。 でも、この美術館なら、そんな心配はない。 名もない男の肖像は、これ以上ないほどぴったりの場所を与えられ、誰も見のがしようがないすばらしいタイミングで観客の前に姿をあらわす。 「やあ、お待ちしていましたよ。どうぞ、次の展示室へ」と言わんばかりにかすかなほほ笑みをうかべている。 印象的だったのは、シャガールの「ダヴィデ王の夢」。 いま書いている物語が、壁にぶつかるたびシャガールの作品に助けられて進んできたこともあり、思い入れを持って長いあいだ観る。 そしてここのコレクションは、なんと言っても近現代美術が充実している。 ジョゼフ=コーネルの箱(今回展示されていたのは「星ホテル」と「海ホテル」)は、幼いころ夢中になったおもちゃの家作りを思い出させる。 バーネット・ニューマンにいたっては、一枚の赤い絵のために専用の展示室(ニューマン・ルーム)が用意されている。 マーク・ロスコの絵画を集めたロスコ・ルームも、ふしぎな空間。 ロスコは、ひとつの空間が自分の絵だけで構成されることを強く望んでいたというから、異国の美術館にこんな素敵な部屋が作られたことを、きっと喜んでいるにちがいない。 企画展では、ホセ・マリア・シシリアの「日蝕」に衝撃を受けた。 マドリード生まれの作家で、蜜蝋を使って作品を描くのだそう。 まがまがしく、荒々しい生命の中枢に手を突っ込んで、湯気のたつ心臓をつかみとるような印象。 見てはいけないものを目撃しているような気がして、無理やり目をそらして立ち去っては、また我慢できずに戻ってきてじっと見てしまう。 花や蝶をモチーフにした作品群もあるそうだから、いつか出会ってみたいものだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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