詩ふたつ
長田弘「詩ふたつ」を読む。長田弘のふたつの詩と、クリムトの風景画が見ひらきにならんだ詩画集。一度めは、NHKの番組で、長田氏本人が朗読しているのを聞いた。なんて美しいことばだろうと思った。二度めは、本を手にとって、声に出さずに読んだ。クリムトの、黄金でも官能でもない、平らかな風景画が「彼岸」のイメージにぴったりだと思った。三度目に、ゆっくりページをめくりながら、声に出して読んだ。言葉が歩き出し、絵の中の森から風が吹いてきて前髪をゆらした。気がついたら涙が流れている。感情がたかぶって出てくる涙というより、研ぎ澄まされた言葉の連なりが持つ圧倒的な静けさと美しさのために、体が勝手に反応して泣いてしまった、という感じだった。死ぬということは、どこか遠くへ行くことではない。いつもここにいて、どこへも行かなくなるということなんだな。著者のあとがきに「喪によって、人が発見するのは絆」とあり、胸をつかれる。今はもう会うことがかなわない人たちを思って、両手を広げ、言葉を抱きしめる。彼らはここにいる。語らうことだってできる。いつでも。