「啄木は殺されたんです」
『石川啄木殺人事件』というショートを某ネットで書いたことがある。16,7年もまえのことになるだろうか。のちに同名の小説を書店でみかけたが、わたしの方がさきです(笑)。 桑原という名探偵がひょんなことから『一握の飯(めし)』と表記されたノートを発見する。それは自筆の歌集であった。記載されている歌のことごとくは食い物、食欲を歌ったものである。たとえばこんな具合だ。 頬につたう涙のご飯一握の飯をしめしし人を忘れず 東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹を食いおる かにかくに渋民村はおいしかり多い山の幸多い川の幸 友がみなわれより偉くみゆる日よ花を買いきて妻とおひたし(花は花かつおであろう) 一読して桑原は、これが巷間に流布されている石川啄木歌集の元本であることに気づく。筆跡はまぎれもなく啄木のものだ。では、啄木の歌は改竄されて出版されたのである。しかし、だれがなんのために。啄木の死因をあらいなおせ。桑原の探偵としてのカンがそう告げていた。 真相を究明すべく、桑原は北海道・釧路にとぶ。そこで驚愕すべきてがかりを得ることになる。啄木は胃拡張だったのだ。…いわゆる、大食らい、ですね。北海道の食べ物は東北出身の啄木にとってうますぎたのだな。そして浮かび上がるひとりの女。小奴。釧路の芸者にして啄木の愛人である。 小奴の身辺をあらううちにつぎつぎと明らかになる事実。啄木の論文『食らうべき詩』と啄木殺人事件との関係は。さらに啄木はどのような方法で殺されたのだろうか。そして真犯人は(みえみえだが)。 …どうです。ちょっとおもしろそうでしょ(笑)。当時はけっこう評判よかったです。フロッピーを紛失したために再録はできないが、書いてて楽しかったな。とても楽しかった。 その意味でも『禁じられた遊び』という映画は腹立たしい。ルネ・クレマン監督だったか。まだ幼いおんなのこを、あんなひどいめにあわせて楽しいのだろうか。いくら映画とはいえ、だ。こりて二度とみない。 宮崎ハヤオの『となりのトトロ』にも辛いシーンがあったな。遠い街に入院している母にあうために、幼い少女をひとりで歩いていかせたじゃないか。いくら猫バスでごきげんをとろうがあれは許せないね。 『火垂の墓』なんてのははじめから敬遠する。 虫も殺せぬ顔をして冷血漢だ、宮崎ハヤオは。まちがいない。