ホイットニー・ヒューストンだあ!
昨晩、さいたまスーパーアリーナでライブがあった。ボディガードのあのホイットニー・ヒューストン。なんとも懐かしい。ノリピーとおんなじだった彼女が立ち直って13年ぶりの来日だという。かわらないなあ。I love you,Tokyo!投げキスと共に、そんな言葉が耳に飛び込む。観客は熱い歓声でこたえる。その反応に、彼女の輪郭が柔らかくなる。ツアーの初日、不安がないわけがない。上り詰めたひとが堕ちて、また這いあがる。容易なことではなかったろう。舞台から身を乗り出してキスしたのは彼女そっくりの娘さんだった。コーラスの中にはおにいさんもいた。ここまでくるまでに家族の支えは大きかっただろうな。彼女の背中を押しているのはいろんなloveなんだろうなと思う。MCが英語なので、早口で言われるとうまく聞きとれなくて残念だったがなんだか泣きそうになったりしてしまったのは彼女の思いがつたわってきたのだと思う。タイトな黒のぴかぴかのミニのワンピースの上にロングコートを羽織ってピンヒールのブーツ姿のホィットニー。この寒さのせいか、体調のせいか時折小さく咳をしたりするが体の奥の方から響いてくるような伸びのある高音は、一瞬にして聴衆の心をつかみ取る。ダンサーと共に盛り上がる舞台。体に刻まれたリズムは人種のDNAか。アドリブは時に迷路に入ったかのように渦巻きながら彼女の想いと共に舞い上がり、駆けのぼる。少しだけしか聞けなかったが年を経て聞く「オールウェイズ・ラブ・ユー」のサビの部分はいささか切なくも響いた。声の記憶。ああ、この声だと思う。よく、テニスコートへ向かう時とか車のカセットで聞いていたな。鼻歌でうたったりもして。30代だった病気前の自分。まだまだ夢見ることがあった頃。今振り返ってみれば、そのあと自分がどんなことになるかなんて思いもしなくて実にもったいない時間の使い方をしていた。幸いであれ不幸であれどの人生もいつかは終わる。そうと知りながら顔を上げて日々を送る強さ。それが年齢を重ねた意味かもしれない。人生のうねりがその声の奥行きになる。そんな気がした舞台だった。隣にいた若い女性ふたりはかなりの大声援を送りノリまくって公演終了後、「すごかった~」と燃え尽きていた。「ただうたってる感じじゃないのよ」と独り言のように一人の女性が言ったので思わず「魂でうたってるんですよね」と応えてしまった。ふたりはそうそう!とうなづいた。会場を出て出口へ向かう時前にいたのは背中の曲がった白髪のおばあさんふたりだった。顔を見合わせて「よかったわね」と語りあっていた。ふたりは「オールウェイズ・ラブ・ユー」をどんな思い出といっしょに聞いたのだろう。そんなことが気になった。