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カテゴリ:日本映画(1931~40)
若き笠智衆が自殺した父親に代わって一家を支える兄を主演した家族もの。
この年(1939年)に監督として再デビューを飾った吉村公三郎の4作目(通算5作目)で、吉村監督の名を一気に高めた『暖流』の直前の作品。原案と脚本は木下恵介で、彼のシナリオの初映画化作品。ビデオにて鑑賞(2007/3/18)。 『五人の兄妹』評価:☆☆☆☆ ストーリー的には、いわゆる松竹大船調そのものではあるが、長男を中心に家族の思いやりと葛藤を描き出した傑作。 ただ、後半で次男が選挙違反で捕まってしまうのが、やや唐突というか、違和感を感じる※。父親で苦しい体験をしているので同じ過ちを繰り返させるには、もう少し説得力がある次男の描写を(事前に)入れていないと駄目だと思う。 また時代的なものか、堅さもないわけではない。 ※、吉村監督の戦前時代を中心にした自伝『キネマの時代-監督修業物語-』(共同通信社)によれば、その年の4月はじめにに、近く行われる総選挙を当て込んだ選挙粛正のPR映画の製作を松竹が委嘱され、それが吉村監督に回ったのが発端らしい。すぐにはプロットも立たないので、手元にあった(助監督の)木下恵介の書いたホームドラマのシナリオに手を入れて、選挙粛正のスローガンにこじつけてやろうとした、とある。なるほど。それで、次男が選挙違反するシーンや、四男が次男を批難するやや大げさなセリフに納得がいった。 しかし、描き出されているシーンやエピソードが丹念で丁寧なのが非常に心地よい。 土手のシーンで縁談話に兄を思ってうなずく妹の表情や、古くて破れた野球のボールの使い方(とくに婚礼の当日に、妹が立ち止まるシーン)、長男と四男の諍いを防空演習に重ねて描く場面(とくに灯火管制下の暗闇で、「サーチライトがきれいだぞ」という笠智衆のセリフは泣かせる)、立ち読みの学生を気遣う古本屋の親父(坂本武)と娘(東山光子)、そして長男が自分の心の支えとなってきたマッチを擦る笠智衆の演技など、味わい深いところが随所にある。 最後の野辺の送りの行列のシーンは、単純にハッピーエンドで終わらせたくないという木下脚本の表れか。長男の万感の想いと、これからの(さらなる)苦難をも暗示しているようで、なかなか意味深である。 笠智衆は、朴訥というか、たどたどしい演技がトレードマークのような所があるが、それが家族のために自分は顧みずに懸命に働く長男の役柄とマッチしていて名演であった。 絶対的な家父長制という背景の下ではあるが、現代にも通じる家族の思いやりと葛藤を描いた傑作として、もっと評価されてもよいと思う。
『五人の兄妹』 【製作年】1939年、日本 【製作】松竹(大船撮影所) 【監督】吉村公三郎 【原案・脚本】木下恵介 【撮影】生方敏夫 【音楽】早乙女光 【出演】笠智衆、葛城文子、日守新一、磯野秋雄、大塚君代、坂本武、東山光子、森川まさみ、忍節子、青木富夫 ほか お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.04.03 14:57:18
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