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カテゴリ:その他のアジア映画
『下妻物語』のイスラエル版とでも言うべきか。しかし、映画自体はけっして軽くはない。
イスラエルの女性が18歳で徴兵されることを、この映画で初めて知った。 四方を“敵”囲まれ、テロが日常的に起きる可能性がある国だから、男性だけでなく女性もというのは言われてみればそうなのだろうが、“平和ボケ”した頭にはお隣の韓国の徴兵制度さえ遠いものとしか感じていなかったので、かなり衝撃的であった。 映画は、徴兵されてエルサレムのパトロール隊に配属されたばかりの、二人の女の子の対立と友情を描いた物語である。 イスラエル女性兵士50年の歴史の中で、映画に取りあげられるのは、この作品が初めてらしい。 アテネ・フランセ文化センターで開催されたイスラエル映画祭2007にて鑑賞したが(2007/3/22)、すでに昨年の第7回東京フィルメックスで上映された際に観て、たいへんに気にいっていたので、改めて足を運んだ。フィルメックスでは、コンペティション部門でグランプリは逃したが、非日常的な任務の中での“普通の”女の子たちを描いた青春映画の傑作と思う。 『クロース・トゥ・ホーム』 評価:☆☆☆☆☆ タイトルの“Close to Home”は、イスラエルの軍隊用語で、親元に住みつつ兵役に通う女性兵士たちにとって、非日常的な勤務地がホーム(家=日常)に近すぎることの困惑を指すようだ。映画の中で、主人公の一人ミリトは、それを理由に転属を願い出る。 また、監督たちによれば、パレスチナ人とイスラエル人は同じホームに同居している、との意味でもあるという。 女性の兵役といっても、軍事強練や戦場の前線とかではなく、映画で描かれるのは、市中のパトロール隊として、道行くアラブ人男性を呼び止め、IDカードを確認し、職務質問をし、住所と氏名を書き記す、というもの。テロや有事の際に、このデータが役に立つのだ(とは上官のセリフ)。 一見簡単そうに見える任務だが、うら若い女性にはアラブ人男性を片端から捕まえて職質をかけるのは抵抗があり、チェック人数が少なければ上官に叱責される。 一番の問題は、若い彼女らには、イスラエル人とアラブ人の区別が簡単にはつかないことだ。そこを揶揄されて、バスの中で自分の荷物を爆発物ではないかと調べさせられて、喧嘩のようになったこともある。 そして、まれに拒否されて絡まれる場合もある。映画のラストでは、パレスチナ人男性が身分書の提出を拒んだことが原因で、主人公を巻き込んだ大きな暴力沙汰になっていく様子が、音だけで暗示される。すごくインパクトがあった。 そして監視する立場の彼女らも、巡回するする上官に常に監視されているという逆説的な状況にある。 しかし、そこはそれ“今時”の女の子たち、携帯電話で上官の行動を連絡しあって互いに目を盗んでは、買い食いするわ、ウィンドウショッピングを楽しむわ、一服するわ、美容院に入るわ、編み物を編むわ(ある兵士が編んだセーターを、退任の際に上官にプレゼントするという皮肉なシーンもある)、青春を桜花?することに予念がない。 女性兵士とはいえ、やはりふつうの女の子なのだ。 映画の冒頭は、どことも知れない部屋で、彼女らがアラブ系の女性を取り調べるシーンから始まる。 バッグの中身を机にぶちまけ、口紅の中から煙草一本一本まで確かめ、また下着姿にして不信物のチェックをする。しかし、たぶんこれが初任務であろう女性兵士の手付きは要領が悪く、上官は苛立ち、アラブ系の女性は怒ったように睨みつける。 女性を解放してカメラが出ると、そこは取り調べ室がいくつもある国境の検問所らしいことがわかる。 ある女性兵士は「こんなことはやりたくない」と取り調べることを拒否し、上官が席を外したすきに、外で待っている人々をいっぺんに入れてしまって騒ぎになる。戻ってきた上官の問いただしに対して誰も何も答えない中、ある女性兵士が「私はやっていない」と呟くと、張本人の女性兵士は自分だと名乗り出て、営倉行きになる。 この冒頭の部分に女性兵士の任務の過酷さと置かれている立場が明確に描かれている。 始めのたどたどしく取り調べる女性兵士が勝気で奔放なスマダル、「やっていない」と呟く女性兵士が真面目で控え目なミリト。スマダルは、勤務後、洋服屋で軟派した男を自宅に連れこんで朝までよろしくやり(両親は外国にいて不在)、その彼と店で万引きをしたりする。ミリトは、欲しい帽子も買う予定がないと試着もできない。 この二人がパトロールでコンビを組まされるのだが、性格の違いから、事ある度に衝突を繰り返す。ミリトは、何かと任務をさぼるスマダルが快くなく、スマダルは、真面目なミリトが口うるさい。ミリトが融通をきかせられず、調べた相手をバスに乗り遅らさせて職を失わせたであろうことにスマダルは呆れはてる。 そんな二人がテロに遭遇したことを契機に、徐々に接近することになる。ショックで倒れたミリトは、介抱してくれた男性に恋心を抱き、スマルダは彼女の後押しをして、偶然みたけた男性の後を二人で追いかける。ここで初めて二人の視線が一致する。 その後、ミリト家へのスマダルの招待や、上官の逢い引き現場の目撃、ホテルでの荷物チェックの任務時の“事件”、営倉入りするミリト、奔走するスマダル、そして誤解……と、カメラは二人の様子と心情の変化を、丹念に丁寧に追っていく。 二人の女の子が、次第に心をかよわせて理解しあう友情物語、とまとめてしまうと日本でもよくつくられる映画と同じになるが、上述してきたようなイスラエルの兵役任務の中で、それを巧みに展開しているところが大きな見所といえよう。 なお、映画のラストは、バイクに乗った二人のクローズアップで終わる。この辺にも『下妻物語』に通じるものを感じた。 それにしても、映画の中だけかもしれないが、イスラエルの女性はほんとうによく煙草を吸う。軍隊のストレスとも関係するのかな? 『クロース・トゥ・ホーム』 【製作年】2005年、イスラエル 【監督・脚本】ダリア・ハゲル、ヴィディ・ビル 【撮影】ヤロン・シャーフ 【音楽】ヨナタン・バル・ギオラ 【出演】スマダル・サヤル、ナーマ・シェンダー ほか 東京フィルメックスにおける監督のQ&A http://filmex.net/mt/dailynews_2006/2006/11/qa_2.html 同上(動画) http://filmex.net/mt/broadcast/2006/11/1120_qa.html お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.03.26 14:15:12
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