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テーマ:昔の日本映画(74)
カテゴリ:日本映画(1961~70)
第46回芥川賞受賞を受章した宇能鴻一郎の原作の映画化。
東京・池袋の新文芸坐で開催中の「[没後十年]誇り高き昭和の天才役者 天衣無縫 勝新太郎」にて鑑賞。 『鯨神』 評価:☆☆☆ 大映の看板スター、市川雷蔵とのコンビも多い田中徳三監督の入魂の一作。 たぶんに『白鯨』を意識したと思われる映画だ。 予想以上に緊迫感の溢れる作品ではあったが、如何せん、大映では特撮技術に関するノウハウがなく、肝心要の“鯨神”がしょぼくて、戦いの悲愴さが薄れてしまっているのがもったいない。 一応、監督の言によれば3種類くらいの模型を作って望んだらしいが、ラストの頭部はともかく、水中でのシーンが大きいイルカくらいの感じなのがなぁ。 この辺、東宝(の円谷英二)を招くなんてことはできなかったのだろうか? 音楽は伊福部昭で、あきらかに『ゴジラ』なりを意識した曲つくりな訳けだから、肝心の特撮も……(というのはしつこいか)。 あと、村全体がほとんど何も働いておらず、一体全体何で生計を立てているのか、鯨を捕るだけでクラしていけるのか、といったあたりも曖昧模糊としているのが、ちょっともったいないかも(鯨神を村全体で倒すことの切迫感が乏しいというか)。 役者陣は、主演の本郷功次郎や勝新太郎、藤村志保の中心となる3人が好演。 志村喬は相変わらず志村喬のイメージの役であった(そういえば彼も東宝か……)。 なお、原作が宇能鴻一郎と目にしたときは、一瞬、疑ってしまった。どうにも官能小説作家のイメージが強いので。 (映画的には金子修介監督のデビュー作のロマンポルノ『宇能鴻一郎の濡れて打つ』)とかもあるし) 話的にはともかく、勝新太郎たちの演技は見る価値があると思う。 【あらすじ】(ネタバレあり) 鯨捕りを生業とする九州・和田浦の漁師たちは、悪魔の化身のような巨大な鯨――鯨神(くじらがみ)に長い間戦いを挑み、何百人が死んでいた。 血気盛んなシャキの祖父、父はすでに殺され、この年も兄が鯨神に挑むが、仲間たちとともに殺されてしまった。シャキは、自分の手で鯨神を倒すことを堅く決意する。 村の鯨名主が、鯨神を殺した者に、一人娘のトヨと家屋敷や田地名跡のすべてを与えると宣言した。シャキは真っ先に名乗りを上げ、そして1週間ほど前に紀州から来た男がそれに続いた。 そんな様子を不安気に見守るエイ。彼女は密かにシャキが好きだった。一方のシャキは、鯨神を倒すことだけが目的で、トヨを嫁にもらって名主の跡を継ぐことなど眼中にはなかった。 また、シャキの幼なじみのカスケは、鯨神に挑んで命をなくす村人らは愚かだと、医者になるために長崎へと出奔する。 よそ者の紀州が気に入らない村人たちは、酒の勢いで喧嘩を挑むが、誰一人敵わず、紀州の強さに一目置くようになる。ある晩、紀州は海岸でエイを犯した。 冬。長崎からカスケが戻り、シャキの妹ユキを嫁にほしいという。鯨神と戦って死ぬつもりのシャキは、カスケに妹を託す。 春はじめ。梅の花のほころんだ日に、エイは村の外れのあばら屋で、密かに赤ん坊を生んだ。シャキは、村の衆に自分の子だと名乗りあげる。彼もエイを愛していた。夫婦の契りを交す二人。赤ん坊に自分の跡を継がせて立派な鯨捕りにするというシャキの姿に、紀州は感じるところがあった。鯨名主の娘トヨは、自尊心を傷つけられる。 ついに、鯨神が和田浦へ向かっているという連絡が、南の村からやってきた。今年こその意気に燃え上がる村人たち。甲船出の前日、紀州は「俺に一番刃刺しを譲れ」と迫るが、シャキは応じない。殴りあいになるが、互いに何かを感じあうのであった。 翌朝、一斉に出発した10隻近い船の前に姿を現す鯨神。鯨名主の合図で、数十本の銛が投げられ、鯨神の背中に背中に突き刺さる。鯨神は猛烈な速さで沖に泳ぎはじめ、いくつかの船が引っくり返される。そのとき、紀州が海に飛び込み、鯨神の脇に取り付くと、槍で急所をつき立てる。続いて飛込もうとするシャキを、まだ早いと鯨名主は抱きとめた。鯨神は海に潜った。 しばらくして、ふたたび鯨神が浮上すると、紀州は絶命していたが、鯨神もかなり弱っていた。ここぞとばかりに飛込んだシャキは、鯨神の頭にとりつき、鼻こぶに刃物をふるう。幾度となく突き刺さるその刃物に、血が次々と噴き出す。潜っては浮上する鯨神との壮絶な戦いに、海は朱に染まるのだった。 ついに鯨神は倒れた。しかし、シャキも瀕死の重傷だった。鯨神の胴体は解体された。目を醒ましたシャキは、彼のために残された鯨神の頭と、砂浜で寝棺に入ったまま対峙する。寄り添うエイに、紀州が無謀なふるまいに出た時に、赤ん坊の父親が誰かを知ったと告げる。夕陽が海を沈むころ、死期が迫るシャキは、自分こそが鯨神だと感じるのだった。 『鯨神』 【製作年】1962年、日本 【製作・配給】大映 【監督】田中徳三 【原作】宇能鴻一郎 【脚本】新藤兼人 【撮影】小林節雄 【音楽】伊福部昭 【出演】本郷功次郎(シャキ)、勝新太郎(紀州)、志村喬(鯨名主)、藤村志保(エイ)、江波杏子(鯨名主の娘:トヨ)、高野通子(シャキの妹:ユキ)、竹村洋介(長崎へ医者になる:カスケ)、見明凡太朗(ヨヘエ)、村田知栄子(シャキの母)、河原侃二(シャキの祖父) ほか
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