分太郎の映画日記

『赤い鯨と白い蛇』

　TVドラマの演出家として多くの名作を世に送り出してきた、せんぼんよしこの映画監督デビュー作（何と78歳でデビュー！）。海辺の町にある古い民家に集まった、世代の違う五人の女性たちの交流を通して心の変化を丁寧に描き出した佳作。　岩波ホールにて鑑賞（2007/3/2）。　評価：☆☆☆　最近物忘れがひどくなってきた70歳代の保江（香川京子）は、孫娘の明美（23歳、宮地真緒）に息子夫婦の元へと連れて行かれる途中、かつての疎開先であった千葉県館山の古い民家を訪ねる。その家の持ち主・光江（35歳、浅田美代子）は、小学生の娘（11歳、坂野真理）と二人で３年前に失踪した夫を待ちながら暮していたが、心機一転を計って家を新築するため、引っ越し作業を終えたばかりであった。保江の要望でそこに泊まることになる二人。その夜、以前にここに住んでいたという美土里（55歳、樹木希林）が現れる。そして、保江の記憶が徐々に解かれていくにつれて、それぞれの人生の一端もだんだんと明らかになっていく……。　主演の香川京子は、黒沢明、小津安二郎、溝口健二、成瀬巳喜男という、日本映画界の巨匠と呼ばれる監督の作品に出演するという快挙？（この４人の作品に全てという女優は彼女だけ）を成し遂げているが、年を取っても相変わらず美しいなぁと云うのが第一印象。　話そのものは間接的に、戦争の悲惨さ、不条理さなどをあぶり出すものとなってはいる。　しかし、それよりも、それぞれに将来に大きな不安（一人はだんだんと記憶をなくしていく恐怖に、一人は予想外の妊娠に、一人は商売のトラブルから逃げ回っていることに、二人の親子は帰ってこない夫・父を待つことに）を抱えている五人の女性たちが、互いに古流誌会うことで、徐々にそれらを克服して変わっていく姿を、丁寧に丹念に描き出していて、感動的である。　そして、BGMに使われているウクレレの優しい音色が耳に心地よく響き、その感動を静かにサポートしている。また、主役の五人以外は、（背景として出てくる人々を除いて）登場人物が出てこない設定・脚本も、話が拡散しないために効果的であったと思う。　ある意味でもう一つの主役ともいえる、民家の年月を重ねた重厚な佇まいもたいへんに味わい深く、その点だけを鑑賞してもよいかもしれない。　ちなみにタイトルの「白い蛇」は、保江の「この家には150歳になる白い蛇が住んでいて、その蛇と話をすると幸せになれる」という話から。「赤い鯨」の招待はラストで明かされるのでお楽しみということで。『赤い鯨と白い蛇』【製作年】2005年、日本【配給】東北新社、ティー・オー・ピー【監督】せんぼんよしこ【脚本】冨川元文【音楽】山口岩男 【出演】香川京子、浅田美代子、宮地真緒、坂野真理、樹木希林公式サイトhttp://www.asproject.jp/