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カテゴリ:長編小説
[PM2:45]
多佳子は犯人の1人が両手を挙げ、店内から出て行く後姿を見つめていた。 そいつは強盗犯よ! そう声に出して叫びたかったが、声に出して言えるはずもなかった。 犯人が被害者として保護される姿を遠くに見つめ、多佳子は歯軋りした。 「大丈夫」 小さな声に顔を上げると、横にいた彼が少し微笑むような顔で多佳子を見下ろしていた。 多佳子はパッと視線を反らし、熱くなった自分の頬を気付かれないように祈った。 こんな危険な状況だというのに、どうかしてるわ。 それとも続く緊張に、頭がどうにかなってしまったのかもしれない。 そう思いつつも、多佳子は彼の存在のお陰で冷静さを保てているのだと自覚していた。 どうせ一時の気の迷いよ。こんなに年下の男の子に恋する訳ないもの。 突然、引きつったようなうめき声が事務所に響いた。 驚いて振り返ると、口をガムテープで巻かれた女子高生が発作でも起こしたかのようにもがき始めた。 「ともみ、ともみ!」 彼女を抱きかかえるようにして、少年が彼女の名前を呼び続けていた。 呆然とその光景を見ていた多佳子の視界の隅に、キラリと鈍く光る物が映った。 えっ? 「やめろっ!!」 彼の声と、何かが爆発したような音が響いた。 そしてしばらく争うような物音が続いた。 何が起きたのか分からず、多佳子は床に伏せたまま動けなかった。 静かになった室内で、女子高生のか細いうめき声だけが続いている。 「放開・・・!」 何かを罵るかのような中国語が聞こえ、多佳子は恐る恐る顔を上げた。 そこには信じられないような光景が広がっていた。 強盗犯はうつ伏せに床に押さえつけられ、両手を背中で拘束されていた。 その背中の上に乗って押さえつけていたのは、中年の女性だった。 「お嬢さん、早く外に行って救急車を呼んで!!」 中年の女性がそう叫んで、多佳子は凍りついた。 多佳子の目の前には、ぐったりと倒れる彼の姿があった。彼の倒れている床の上には黒いような液体が飛び散っていた。 「いやあああああああああああ!!!」 多佳子は自分の絶叫を遠くに聞いた。 [PM20:00] 多佳子はすっかり暗くなった空を見上げた。 何て、長い1日だったのだろうか。 まさか30歳の誕生日にこんな事件に巻き込まれるなんて、誰が予測できただろう? 長い事情聴取が終わり、多佳子は迎えに来た母と共にアパートに帰った。 「ほんとにもう、心臓が飛び出るかと思ったわ」 普段から心配をかけているだろう母の言葉に、心が締め付けられた。 多佳子がやっと今日初めて口にしたのは、アパートに戻って母が作ってくれたうどんだった。 多佳子はまるで映画の世界に紛れ込んでしまったかのような今日の出来事を振り返っていた。 強盗を取り押さえたのは、元婦人警官の女性だった。相当な柔道の名手らしく、警察での事情聴取でも、聞いてもいないのに教えてくれた。 店員として逃げ出そうとした強盗犯も、すぐに捕まったらしい。当然といえば当然なのだけど。 そしてあの女子高生と、その女子高生が撃たれるのを阻んで自らが撃たれたしまった彼は、すぐに救急車で病院に運ばれた。 彼は大腿部を撃たれたが、命に別状はないと警察で聞いていたので、僅かながら安堵した。 どうしても、もう一度彼に会いたい。 彼は単に正義心の強い人だったのかもしれない。 それでも、多佳子は彼に会ってお礼が言いたかった。 本当は今夜彼に会いに行こうと思っていたのだが、もう面会時間が過ぎていると言われ、渋々諦めた。 明日、彼に会いに行こう。 花束を持って。 彼はどんな花が好きなのだろう? どんな食べ物が好きなのかしら。 もっと、色々彼の事が知りたい。 でもまず最初は、名前を聞かなければ・・・。 多佳子は興奮して眠れないかと思っていたが、疲れ果てていたのか、いつの間にか眠ってしまった。 ----- やっと続きですよ。長い間サボってしまった^^; 次で終わりです~!!やったー! そうしたら、日記で長編書くのはやめると思います(笑) だって自分でも思うけど読みにくいですもんね^^; でも気が向いたら短編とSSは書いていきます♪ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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