童話 「辛口のレストラン」
図書館の帰り道、二人の男が分厚い本を手に持って歩いておりました。大学から下宿へは電車に乗るのですが、その日はいつも以上に議論が終わらずに、歩いて下宿まで帰ることにしました。途中、お腹が空いたときに、ちょうど頃合のよさそうなレストランがありました。「やあやあ、おあつらえ向きだ。ここで一つ、夕食をとるとするか」二人がレストランに入ろうとしたとき、そのドアにこんな張り紙がありました。「本店は辛口のレストランです。ご注意下さい」男たちは顔を見合わせました。「ねえ君、辛口でご注意下さいとは、少々見くびられてはいないかい。子供ではあるまいし」「天竺には辛い香辛料があると言うじゃないか。ここまでいうのだから気をつけたまえ」ドアを開けると、厨房から中年の店主が出てきました。男たちは外套を脱ぎ、窓際の席に座ると、メニューを眺めました。しかし、どれも今ひとつです。なかなか注文が決まらないでいると、店主は少し怒った調子で、言いました。「お客さん、早く決めてもらえませんかね。こっちも商売ですから」「これは失礼。決まりましたらお呼びします」男たちがそう言うと、店主は不満げに厨房に戻っていきました。「なんだか恐いじゃないか。しかし美味しければいいがね」「カレーや明太子か。どれも決め手に欠けるメニューだよ君」厨房では店主が椅子に座って新聞を読んでいる音がします。そしてなにやらつぶやいているようです。聞き耳を立ててみますと、店主は新聞を読みながら独り言を言っているようです。「だからこの国の政治はダメなのだよ」「近頃の若いものの考えはなっとらん」読む記事読む記事、どれも気に食わない様子で独り言をぶつぶつと言っています。「ねえきみ、新聞にあそこまで批判をする必要があるかね」「辛口のレストランであるな」