中村みつをさんの個展
土曜日に中村みつをさんの個展を見に行ってきました。もう、中村みつをさんについては、説明不要ですよね。今回の作品には、いつものパステルカラー調のものに加えて、銅版をエッジングしたものが多く含まれています。モノクロの作品なのに、焚き火の炎の暖かさや、雪の頂きのまぶしさが感じられ、何とも不思議です。展示作品の大部分は、この個展のために描いたもので、半年前から製作に取りかかったそうです。途中、そのあまりの苦しさに、逃げ出そうと思ったこともあったとか。中村さんと比べるのはせんえつですが、私にも似たような経験があります。99年にラグビーの単行本を初めて書いたとき、その途中、何度も、すみません、書けませんと、文藝春秋社に頭を下げようと思いました。でも、それをやったらこの世界から足を洗うことになるなと思い、耐えました。ものを創るとき、その原動力はもちろん内発的なものです。けれど、その推進力となると、どなたも、多かれ少なかれ、締め切りの切迫感、あるいはそれを守れなかったときの事の大きさを利用しているところがあるのではないでしょうか。とすれば、逆に、締め切りのない、あるいは締め切りを自分で設定できる創作活動は、その推進力をあてにできないことになります。作家はよく、デビュー作を書くのがいちばん辛かったといいますが、それが生涯唯一、締め切りなく書いたものだからでしょう。単行本の場合、出版社が発行スケジュールを組むので、もちろん締め切りはあるのですが、雑誌などに比べると緩やかで、だから、ごめんなさいしちゃおうかなという、悪魔の発想が忍び寄る余地が生まれるわけです。中村さんは原則として1年に1回の個展開催を自分に課しているそうです。きっと、中村さんの頭の中を、悪魔たちが自由闊達に走り回ることでしょう。それが想像できるから、私は心の底から中村さんを尊敬するのです。中村みつをさんの個展「旅のはじまり」は、昨年と同じ、原宿のギャラリー「OPA」(5785-2646)で開催しています。<10月18日(水)まで 11時~19時>