カテゴリ:ボサノバ・ブラジル音楽
宮沢堅治という有名な詩人がいます。この方はとても感受性の強い方で、たとえば音楽を聴くと、すぐに匂いや色、風景を思い浮かべたそうです。
そして感銘を受けた対象と自分との間を埋めるように、言葉を綴っていき、その言葉の「なまなましさ」が人々の心を魅了します。 凡人の私達でも、大好きな音楽を聴いた時、心に現れる「何か」があるはずです。 1曲の楽曲からできあがった映画があるように、音楽は時にインスピレーションの源であったりします。音楽を聴いた時の感覚を「甘酸っぱさ」や「心色づく」とたとえるように、聴覚からもたらされた感覚は、味覚であったり、心象であったりします。 言葉が足らない私は、この感覚をうまく表現することはできませんが、心の揺らめきが自然に静まるまで、身を委ねるのも心地が良かったりします。ずっと音楽を好きでいれたのは、こういう感覚に魅せられていたからだと、改めて思うのです。 今日はそんな風に心を刺激してくれるアルバムを考えてみたのですが、秋の気配を感じるこの時期にたまらなく聴きたくなるのが、このアントニオ・カルロス・ジョビンとエリス・レジーナの74年の競演盤です。ジョビンの芳醇なメロディを二人がリラックスしたムードで歌うこのアルバムを聴くと、浜辺の夕日を眺めているような叙情感に包まれます。ただ切なさに投げ出されるのではなく、母親の抱擁のように、やわらかく受け止めてくれて、聴き終えた後、すっと心の疲れが消えているそんな宝物のようなアルバムです。 エリス・レジーナと言えば、あの生きる喜びを爆発させたような歌声が印象的ですが、その奥に諸刃のように痛さも感じていました。このアルバムで魅せた彼女の歌声は、優しさに満ちていて、彼女の激しい人生の一時の報いのようなアルバムです。このアルバムのジャケットを開くと、録音時の写真を見ることができます。私が生まれた年に撮られたこの写真達も、とても感慨深く、心を刺激します。
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