ヴォーカリストとしてのジャッキー・ジャクソン
ジャクソン5は、メイン・ヴォーカルのマイケル・ジャクソンにばかり注目が集まってしまい、彼以外の兄弟の歌声はあまり思い出せないし、実際、他のメンバーについて全く知られていないのが現状です。今回紹介するのはジャクソン兄弟の長男ジャッキー・ジャクソンの73年のソロ・アルバムです。ただ珍しいだけでなく、ジャッキーが、卓越したファルセット唱法(声帯の振動を倍にする事で、1オクターブ上の音を出す歌い方。スモーキー・ロビンソンに代表されるような裏声。)のテクニックを持った、素晴らしいヴォーカリストであった事を証明するアルバムです。ソロ名義になっていますが、バックに声域の違う複数のヴォーカリストを配し、丁寧に作りこまれたコーラス・ワークは、ジャッキーのファルセット唱法を中心としたもう1つのコーラス・グループという感じで、レベルもかなり高いです。ジャクソン5自体、コーラス・グループとしては機能してしていなかったので、この点も興味深いです。また熱心なソウル・ファンには、聡明期フィラデルフィア・ソウルの超名曲、デルフォニックスの「Didn't I (Blow Your Mind This Time)」のカバーが収録されているところも魅力の一つでしょう。この曲はギャンブル&ハフとともにフィラデルフィア・ソウルの発展に尽力したトム・ベルがデルフォニックスのヴォーカリスト、ウィリアム・ハートとともに作りこんだファルセット唱法の古典で、この曲を歌いこなすジャッキーを、ヴォーカリストとして認めない訳にはいきません。プロデュースはジャクソン5の作品も手掛けたザ・コーポレーションの面々、彼らのジャッキーに対する思い入れが伝わってくるアルバムでもあります。