紅のガードマン
あるビルにいるガードマンのおじさんがとても愛想がいいんですよ。 すごい笑顔。 もう半端じゃない笑顔。 威圧感バリバリの制服に身をつつむ40台半ばのオッサンのくせに、あの笑顔はジャニーズJrを超える。 そのまま「デニーズへようこそ~♪」と言ったとしても何の違和感も無い。むしろ「あぁ~そうかそうか。ここはデニーズだったね。それじゃデミグラスハンバーグとクリームソーダお願いします」と返事をしてしまうこと間違いなし。 そしてその愛想の良さも尋常ではない。 例えばディズニーランドの人気アトラクション『ジャングルクルーズ』で案内役をやらせたらぴったり。アトラクションの最後に言う決まりの一言「さぁ~、ジャングルで最も恐ろしい場所、文明社会に到着です。皆さん気をつけてお帰りください」みたいなセリフも、家族のため自分を殺して生き抜いてきた男だけがもつ哀愁漂う背中ごしに言われるとなにやら深く考え込まずにはいられなくなる。 ただ元気がいいだけの若造には出せない深みのようなものがあの笑顔と愛想にはあるのです。 惜しい。 実に惜しい。 もし営業マンにでもなれば凄まじい勢いで契約をとりまくり、実際にあるのかは知らないけどドラマとかで良く見るあの仕事場の壁は貼られている営業成績の棒グラフは彼だけが断トツに飛びぬけてて、それこそ天井まで届いているに違いない。 だがしかし! 彼は、おじさんは、ガードマン。 ガードマンなのです。 1つのビルを守る、ガードなマンなのです。 愛想とか笑顔とか必要ない。ガードマンに必要なのは外敵を寄せ付けない雰囲気と万が一の時に対応できる技術なのです。誰かに笑顔を振りまく必要なんてまったくない。むしろ他人は威圧すべきですらある。寄らば斬る、そんな空気を漂わせるのが正しいガードマンのあり方というものでしょう。つまりガードマンとしてあの笑顔と愛想の良さはむしろ邪魔。 惜しい。 実に惜しい。 「おはようございます」 今日も最高の挨拶をされました。 これだけ気持ちのいい笑顔と愛想の良さを持ちながら、ガードマンとしては駄目だとは……。 なにやら可哀そうなので、このおじさんのいるビルから物を盗むのは止めようとおもいます。