交通事故と裁判所(12)
交通事故には「どちらにも悪いところがあるが,どちらかというとこちらの方が悪い」というような事故が多いのではないか。信号のない交差点での出会い頭の衝突事故を例にとってみる。優先道路を走っていた車は,当然非優先道路を走っていた車に対して賠償請求するだろう。しかし,優先道路を走っている車が全く悪くない,というわけではない。優先道路を走っていた車が交差点で注意して走行していれば事故は防げたとも言える。したがって,その車にも事故について多少の責任を負わせるべきということになる。それを過失相殺という。事故全体について,一方にどれだけの割合の責任があり,もう一方にどれだけの割合の責任があったか,という考え方をとるのだ。このように事故の責任を割合でとらえたものを,過失割合ということもある。裁判では,関係者の証言や警察の現場検証の調書をもとに事故当時の状況を細かく認定し,過失割合をはじきだしている。非常に精密な時間のかかる作業である。そこで,損害保険会社どおしで事故の状況に応じてあらかじめ過失割合を定型的に定めておいて,裁判になる前に示談を成立させてしまう例が多い。先の例で言えば,「非優先道路の車が7割・優先道路の車が3割」と決めておくのである。保険に入っていれば運転手が金を払うわけではなく保険会社が払うので,運転手は文句を言わず示談に応じるのだ。このような話以外に,「素因減額」という議論がある。これも過失相殺の一環として議論されているようである。普通ならかすり傷程度で終わる交通事故を起こした。ところが,被害者が外傷性ショックに対して過敏に反応する特異体質の人だったために,その事故がもとでショック死した。そのような場合,事故を起こした人の責任がどこまで減額されるか,という問題である。このことをテーマにした裁判官の研究発表を先日聞かせていただいたが,非常に難解でよくわからなかった。法律家になろうという人ならともかく,皆さんはこのような議論が専門家によってされているということだけ知っておけばよいのではないだろうか。←最後にここをクリックして下さい。