ツッコんでも独り。
とある駅前で、ふと缶コーヒーが欲しくなり自販機にコインを投入した。軽快な電子音とともに、どこからか声が聞こえてきたような気がした。しかし俺はその時、「さて、無糖にしようかビターしようか」とダイエット生活上の判断に頭のほとんどを持っていかれておりその「声」を意識していなかったのだ。まぁ、いいや。ビターで。押すべきボタンに狙いが定まった頃にようやっと、その「声」が耳に飛び込んできたが、もう遅い。「…あったか~いコーヒーやこう」かまわずボタンを押す。ガチャン、ガラゴラッ「まいど、おおきにぃ~」何だナンダ。誰だ今しゃべったのわ。自販機であった。ダイドードリンコさんチの自販機が、缶コーヒーを買った俺に関西弁でお礼を言ったのだった。雨の中。誰もいない駅前広場で。くどいようだが関西弁で。どうすればいいのだ。こんなシチュエーションでお礼を言われても困るでわないか。「いえいえ、いたみいります」違うだろう。「ぼちぼちですわ」そうでもないはずだ。しかし相手がいくら機械だと頭では理解していても『関西弁』というファクターというかギミックを使ってきた瞬間、受け手として、どうしてもツッコまなくてはならないという使命感に駆られてしまうのはどうしたものか。どうしようもない。なにしろ相手は関西弁なのだ。そこが誰もいない雨の駅前広場だろうが買ったものが缶コーヒーだろうが関係ない。商品の取り出し口から缶コーヒーを抜きつつ返す手の甲で取り出し口の上ブタを軽くはたきながら心の中で「ええかげんにしなさい」とつぶやいてみた。ま、大声でソレをやると、ちょっと危ない人になっちゃうからね。誰も見てないんだけど。