あらしのよるに・・・
昨日の台風はほんとに強かった。あんなに強いまま上陸して日本列島をなめるように縦断していったのは久しぶりだ。もうすでに日中から風雨が強くて、午前中のうちに牛たちのご飯の仕度をして、午後一番で牧場主は消防団の見回りに出て行った。と、すぐ帰ってきた。「とってもこんな格好じゃ行がれねえじゃ!」もうすでに倒木で道路が塞がれているという。つなぎに着替えて合羽を着て、チェンソーを携えて再び出発。こんな天候にもかかわらず当牧場にも来客があり、しかも天候が天候なだけに珈琲をすすってストーブ(あ、すでに出しました)にあたって話し込んでいく。そしてお客が帰ったと思ったら、牧場主が戻ってきた。「搾乳が終わったら屯所で待機命令が出たから、今日は早めに搾って出かけるから」いつもより小一時間早く搾乳を開始。外のものすごい雨と風の音で牛たちもバタバタと落ち着かない。「おうち飛んじゃわない?」とモーモーなく子や、目を3倍くらいに見開く子。「大丈夫だから、安心しろ」と牛にとも自分にともつかないような声をかけ、搾乳を続ける。ようやく搾り終え、あとはエサやりである。と、バツン。電気が消えた。えーーと思っているとすぐに復旧。これはやばい。早く牛にご飯をあげなくちゃ。バツン。・・・・今度はもう復旧しなかった。外を見るとどこの牛舎も真っ暗、当地区全域停電である。うちは搾り終わったところだったからなんとか大丈夫だが、まったく搾っている途中だと牛のお乳を傷めてしまいかねない。ちょうどどこも作業している頃だろう。そんななか牧場主が優れものを見つけて帰ってきた。ヘッドライトである。時々かんなくず(牛のベッドに敷く)をとりに行くときにそこが暗いので準備していたものだったが、かなり明るい。ひとつしかないので牧場主が頭につけてエサやりをした。牛舎の仕事もなんとか終えて、牧場主は消防団の屯所に向かった。だがいっこうに電気は復旧しない。しかたなく家に入ってとりあえずろうそくとラジオを探す。冬場の猛吹雪のときは年に一度くらい停電したりするが、こんなに長い時間、しかも台風で停電したのはあまり記憶にない。真っ暗ななか、友人のMちゃんに以前もらったキャンドルグラスにアロマキャンドルを灯してみる。思った以上に濃い闇のなかにぼおっと灯るあかり。動き回れる明るさではない。「ロウソクを灯してもこれだもの、ガブとメイがお互いの姿を判らなかったのも頷けるね。」なんて独り言を言いながら、いつもよりだいぶ早く床についた。にゃあさんとともに。夕方6時から停まった電気は夜の9時にやっと復旧し、牧場主もそれから戻ってきた。一夜明けて牧場のまわりを見渡すと、井戸の小屋は全壊し、産廃を入れておく小屋もひっくり返っている。エサを作る小屋の壁は吹っ飛ばされ、牛舎の2階のシャッターは2箇所ともはずれて壊れてしまった。それでも人的家畜的被害がなかったのは不幸中の幸い。ただもっと広く周りを見渡すと、「よかったよかった」とばかりも言っていられない。他の酪農家さんでは牛舎の屋根を飛ばされたり、壁をもっていかれて梁がおちたりしているところもある。下のほうの地区ではほとんど落ちてしまった収穫直前のりんごを家族総出で拾っていたり、すっかり寝てしまった稲を見て肩を落とす姿があったり。自然の前には人間も文明の利器も、まったく無力だと痛感させられた一日だった。みなさんのところは大丈夫でしたか。被害に遭われた方には、お見舞い申し上げます。