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テーマ:時代小説がダイスキ(438)
カテゴリ:読んだ本(時代)
順序が逆になるが「銀座開化事件帖」(日記は→こちらから)の前話にあたる,
松井今朝子の「幕末あどれさん」(2004)を読んだ。銀座開化事件帖が明治7年からの話であったのに対し,こちらは明治維新前夜から明治維新直後まで。 なんとなく,「開花事件帖」の主人公だった幕臣の次男坊久保田宗八郎が「痛快な活躍」をする話のように思っていたのだが,全く違った(笑) 宗八郎は剣道の達人である。講武所に通い,講武所の剣道師範である男谷精一郎の道場にも通って免許皆伝目前にまでなっている。 嫂のいる屋敷に息苦しくなって本所亀沢町で一人暮らしをし,講武所の同輩との口争いから講武所も道場も辞めてしまった宗八郎は浅草猿若町の芝居街に入り浸り,ついに河竹新七(後の→黙阿弥,Wik,引退発表後の改名だから「黙」としたのかなあ?)の弟子となって作家への道を目指すことになる。 とこうまで書くといかにも宗八郎が主人公のような感じがするのだが,実は違う。 タイトルにある「あどれさん」とはフランス語で「若者」のこと。 ということで,宗八郎だけではなく,片瀬源之助も,フランス人のインゲレク軍曹も,いや年齢に関係なくその当時を生きたすべての人々が主人公といえる。 幕末,明治維新を扱った作品はいくつもあるが,この作者の持ち場ともいえる芝居の世界を1つの場にしたため,江戸の町民からその時代を見るという視点がおもしろかった。 長州征伐や鳥羽伏見の戦いは「遠い世界の出来事」でしかなく,勝海舟すら「上の人」としてしか出てこない(情報を知らされないという点では太平洋戦争時の「普通の人」に似ている,笑)。 「実は違う」と書いたのは,剣道の達人である宗八郎があまり活躍しなかったことからもくるのだが,最後のほうで官軍の士官を峰打ちしそのため,江戸にいられなくなって蝦夷地入植者の一員として花紫(年季あけの品川の女郎で,元御家人の娘)と船に乗るのだが,ここらへんが「銀座開化事件帖」とつながってくる。 ところで,宗八郎のお兄ちゃんである久保田主馬もなかなか魅力的なキャラクターだった。父の早世によって14歳くらいから小納戸役として江戸城に勤めるのだが,将軍の代替わりを気に禄を返上してしまい,横浜で商人の道に進む。 なりわいを芝居の世界の求めても武士であることにこだわる宗八郎との対比がよかった。 ちなみに,宗八郎に危機を知らせる元同心で市政局の役人笹岡が出てくるが,これは「 家、家にあらず」などに出てきた同心笹岡の子孫(途中で養子が入ってるかもしれないが)なのだろうなぁ。 松井今朝子の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (松井今朝子)からごらんください。 楽天ブックス お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007/01/13 11:55:20 PM
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