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2007/05/26
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カテゴリ:読んだ本(時代)

高橋克彦の「火怨」(1999)

を読んだ。

桓武天皇期に坂上田村麻呂が征夷大将軍として東北地方を平定するとふつうの歴史書に書かれる事件が,「火怨」では平定された側から見た物語として書かれている。

朝廷に対する蝦夷の抵抗の中心となるのが若い阿弖流為(あてるい)なのだが,歴史上の「アテルイ」は「資料」的には「白紙」に近いようだ。

つまり,「火怨」は歴史上の人物をモデルにしたのではなく,歴史上の人物を作り上げてしまったということであり,やはりこの作者はすごい!! と思わざるをえなかった。

アテルイとともに処刑されたとして史書に残るモレ(母礼)はどちらかというと三国志の諸葛孔明より水滸伝の呉用を思わせる魅力たっぷりの軍師として描かれ,彼の立てる戦略によって少数で多数を制する話の展開にワクワクさせられる。

「負け」が決まっている物語の終わらせ方もきれいで,後味もよいが,どのようにきれいなのかは実際に読んでもらうほかはない(笑)

以下は,朝廷軍との戦いの簡単なまとめです。年齢は事件の年に関係なく780年のものに換算してあります。

☆780年(宝亀11年)春
伊治公鮮麻呂が按察使紀広純(参議,従四位下)と牡鹿郡大領道嶋大楯を討つのを助ける。

胆沢の阿弖流為(18)は途中で黒石の母礼(25)を誘い,胆沢の兵130名を率いて,伊治城内の多賀城の兵を外に誘い出す。
側近の飛良手(26)が鮮麻呂に仕える多久麻につなぎをとろうとして,物部天鈴(41)と出会う。


☆780年秋
征東将軍藤原継縄(中納言,従三位),副将軍,陸奥守大伴益立(従四位下),副将軍紀古佐美(従五位上),副将軍百済王俊哲(従五位上),陸奥守多治比宇美(従五位下)率いる2万の軍が相手。

阿弖流為,母礼,江刺の伊佐西古(21)が兵300で,多賀城に通じる道を守備していた紀古佐美の本陣を襲って4千の兵をひきつけ,地元の蝦夷に多賀城の焼き打ちをさせる。

藤原継縄,大伴益立は解任される。


☆781年(天応元)春(桓武天皇に)
征東将軍藤原小黒麻呂(参議),副将軍紀古佐美(従五位上),百済王俊哲(従五位上),内蔵全成,多犬養率いる2万5千の軍を4千で相手。

阿弖流為,伊佐西古,和賀の諸絞率いる騎馬2千5百と母礼が率いる弓隊5百で,鮮麻呂の腹心だった孟比子(23)の手引きによりあらかじめ潜んでいた伊治で山越えしようとする2万を迎え撃って兵糧を焼き,川をさかのぼる5千と分断する。

小黒麻呂は軍を解散し,4人の副将軍を連れて都に戻る。


☆陸奥按察使兼鎮守将軍として大伴家持(従三位)が派遣され長い平和が続く。


☆789年(延暦8)春
征東将軍紀古佐美(参議,正四位下),副将軍入間広成,鎮守将軍多治比宇美率いる5万2千の軍を1万2千で相手。

古佐美の全軍が山越えして衣川の平地(胆沢のある側)に陣を張るように仕向け,主力を日高見川の対岸黒石の側に置いて,いかだで川を渡った6千を壊滅させる。

古佐美は残ったすべてを多賀城に引きあげさせて軍を解散。


☆789年(延暦8)秋
阿弖流為,伊佐西古,母礼,飛良手,孟比子が天鈴に連れられて都に行き,坂上田村麻呂(近衛少将,780年23歳)と会い,腹心の美園とも知り合う。

東日流の赤頭を訪れた帰りに軽米で取実に出会い,連れ帰る。


☆794(延暦13)春
征東将軍大伴弟麻呂,副将軍百済王俊哲,多治比浜成,巨勢野足,坂上田村麻呂(従四位下)率いる10万の軍を1万5千で相手。

束稲山,東岳に砦を作り,5万の攻め手を撃退。俊哲,浜成,野足がいる手薄な本陣を伊佐西古が襲撃して撤退させる。

弟麻呂は「病気」として退けていた田村麻呂の言を入れ,梅雨時に軍を引きあげる。


☆801年(延暦20)春~秋
征夷大将軍坂上田村麻呂率いる4万の軍を,4千で相手。

胆沢の柵を田村麻呂の本陣とさせ,金成山にこもって応戦。美園と相打ちした伊佐西古,孟比子,取実を失う。


☆802年(延暦21)春
阿弖流為,母礼,死んだことになっている諸絞らが田村麻呂に投降。
阿弖流為と母礼は都に上り河内で処刑される。


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Last updated  2007/05/26 12:22:41 AM
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