第一幕 思い出に包まれて
序章
1人の男が、一冊の厚めのノートを持っている。
男 吉川圭介33歳(以降・圭介)
圭介 ノートを開き読み始める 間を飛ばすように読んでいたが、最後のページを開き手が止まる
圭介 時に人は哀しみを歩き気づく、遅かりしことを。夢の中を夢のようだと時を過ごし、赴こうとせずにただ待つのみで。ただ哀しくも気付かないのは、それが当たり前のように過ぎ行くからか。後悔の念すら抱かず、先の世に何か変化を与えることもなく、ただ当たり前に、ただ確実に。その恐ろしくも着実な流れの中、人は歩む。止まらぬ時の中をただ歩む。
この淀みない淀みの中、私も歩く。私も歩き、私は何を得るのだろう?何を見、何を信じ、そして何を与えるのだろう?そんな答えすら見つけられぬまま、今に至り、ここにいる。
目を閉じ、ただ耳を澄まし、今言えることは
ありがとう
圭介 涙をこらえノートを閉じる
暗転
第二場 再会
圭介 自分の部屋で横になりながら新聞を読んでいる。休日の午前中のありがちな風景である。そこへ玄関のチャイムの音
圭介 顔を上げるが、また新聞に目を戻し、聞こえなかったフリをする。そこへ再びチャイムの音
圭介 静かに新聞をたたみ、足音を立てぬよう玄関へと向かい魚眼レンズに目を当てようとすると、三度チャイムの音
圭介 諦めたように鍵を開け目をこすりながらドアを開ける
圭介 はい?
ドアの前には男が立っている。
男 達川守33歳(以降・守)
守 圭介の顔を見て嬉しそうに声をかける
守 よっ!
圭介 嬉しそうな守の顔を見て、言葉を合わせる
圭介 お、おう・・・。
守 久しぶりっ!
圭介 お、おう・・・
守 何年振りだ?大学以来だから・・・10年ぶりか。
守 そう言うと圭介の横をすり抜け、勝手に部屋の中に入り込み、部屋の中を見渡している
圭介 お、おう・・・
圭介 聞こえないくらいの声で呟く
圭介 顔は覚えてるんだよ、顔は。しっかりと。すっごく仲がよかったことも分かってるんだよ。ていうか、小中高大の6.3.3.4の16年一緒だったんだよ。あー名前がなあ・・・名前だけがなあ・・・なんで忘れるかなぁ・・・俺ってば。
守 貼ってあるアイドルのポスターを指差し
守 これ誰だ?
圭介 上の空で答える
圭介 お、おう・・・。
守 王!?これ?そうなの!?世界の王がカミングアウト!?え、でも女性が監督って問題ないか?ん?それは別にいいのか、制度的には・・・いつまでボケ続ければ良いのだろうか・・・。圭介!聞いてんのか!?
圭介 あ?ああ・・・。
守 まったくおまえという奴はいつもいつも人の話を半分で・・・そんな事で無事に生きていけてるんでしょうかねえ、斉藤さん。
守 ふと斉藤さんを呼んでみたものの首を傾げる
守 ・・・・・?斉藤さん?斉藤さんって誰だ?
圭介 何かを思い出したように
圭介 ああ!!
守 何だよ!驚かすなよ!
圭介 ぬぉあ!!
守 怖いよ!
圭介 うるさいなあ!静かにしろよ!
守 圭介の剣幕にたじろぐ
守 はい・・・すいません・・・。
つづく
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