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テーマ:連載戯曲(216)
カテゴリ:哀歌
場面変わって圭介の回想
大学構内 圭介 芝生に寝転がっている 守 圭介を見つけ近寄ってくる 守 やばいよ! 圭介 何が? 守 日本語が分からない。 圭介 は? 守 日本語が理解できないんだよ! 圭介 してるじゃん。 守 そういうことじゃなくて。 圭介 どういうこと? 守 もう!会話は想像力だよ!相手が何を言わんとしているのかを考えながら、人の話を聞けよ! 圭介 すまん。 守 さっき驚くべき事態が起こったんだよ。 圭介 何だよ。 守 あのな、それは仏文の時間に起こったのさ。 圭介 ああ。 守 私はいつものとおり席に着き、出欠をとられると斉藤さんの話を一言一句聞き逃すまいと彼を凝視しておりました。しばらくすると私は急にめまいに襲われ静かに暗闇の中へと落ちていきました。どのくらい時間が経ったのでしょう、完全に意識が戻ったときには、なんと斉藤さんは意味不明の言語を喋っていたのです。 圭介 ここまで話を聞いていたが、急に興味を失ったように 圭介 寝てたんだろ? 守 え? 圭介 居眠りだろ? 守 そんなことあるか! 圭介 だって、よだれついてるし。 守 口の周りを拭う 守 まさか・・・ホントだっ!でも斉藤さんの言語は・・・ 圭介 フランス語だろ? 守 何故? 圭介 フランス文学だもん。 守 何が 圭介 仏文が。 守 嘘! 圭介 何だよ、今更・・・。 守 じゃあ、斉藤さんは・・・? 圭介 フランス文学の教授だろ? 守 そうだったのか・・・。 圭介 おまえ、本気で言ってるのか? 守 何を? 圭介 だから、日本語が理解できない!から始まった一連の会話をさ。 守 俺はいつだって本気だよ。 圭介 本当に? 守 俺はいつだって本気で冗談を言う。 圭介 まじめに聞いた俺が馬鹿だった・・・。 圭介 うなだれる 守 そんなに自分を卑下するなよ。 圭介 誰のせいだよ!誰の!! 守 それにお前は馬鹿じゃない。 圭介 あ、ありがとう。 守 ふざけた態度でボケを聞いてもらっても、こっちは何も面白くない。そういう意味合いにおいて圭介は、まじめに俺のボケを聞いてくれる。その一点においてのみ圭介は、馬鹿じゃない! 圭介 その一点以外においては? 守 そこは、俺は関与していないので知らん! 圭介 お前の人生はボケを中心に回ってんのかよ 守 ああ! 圭介 何故か虚しい・・・。 守 冗談はさておき・・・。 圭介 さておかれたし・・・。 守 最近まったく授業が理解できないんだけども。 圭介 だから寝てるからだろ? 守 あのな?何事にも原因があって結果があるんだよ。この場合寝てたってのが結果だよな?じゃあ原因は? 圭介 そりゃ眠いからだろ。 守 ・・・なるほど、そういう考え方もあるね。・・・分かった、ちょっと言い方を変えよう。眠くなったってのが結果だとすると原因は? 圭介 寝不足。 守 凄いね。即答。えっとな、物事には少なくとも2つ以上の視点が存在してるんだ。それが渾然一体となって一つの結末へと収束していくわけなんだが、ここまで述べられた君の視点というのは言わば俺を敵対化した客観から見ているんだよ。 圭介 そんなことないだろ。それに敵対化って時点で客観からは、ズれてる気がするが・・・。つまり何が言いたいんだ? 守 つまり!授業がつまらないから眠くなるの! 圭介 守のあまりの自信満々の言葉に2の句につまる 圭介 うっ・・・そ、そうくるか。なら、授業がつまらないのは内容が理解できないからというのが大きな要因だと思うのだが、この結果に対する原因は? 守 斉藤さんの授業が下手だから。 圭介 分かりやすい解答の模範だね。じゃあ斉藤さんの授業が下手なのは何故だ? 守 そんなの斉藤さんに聞いてくれよ。 圭介 まあ、そうだな。しかしな、こと仏文というこの科目においては小中高と続いてきた教育の範囲を明らかに超えているんだよ。 守 まあな。「私、リルケの詩が好き」っていう女子高生がいたとしても原文で読んでる奴はまず、いないだろうからねぇ。 圭介 そうなんだ。フランス語だからつい特別視をしがちだけど、たとえば中学に入るまで英語にまったく触れずに育った奴がいたとしよう。そいつが、最初の英語の時間に居眠りをしてしまったとする。 守 ああ。 圭介 最初の時間だから、まあアルファベットの説明から入るよ。誰でも知ってるのは分かっていてもな。 守 だろうな。 圭介 でもそいつは知らないんだ。奇跡的に、全く。そして不幸なことにそいつは居眠りをしてしまった。 守 かわいそうに・・・。 圭介 あとあと突っ込まれそうだから、先に言っておくけど、そいつにも事情はある。父親は病弱で母親は看病の為に満足に働くこともできない。だからそいつは朝4時に起きて新聞配達をやっているんだ。 守 なんて偉い奴なんだ・・・。 圭介 原因はともあれ結果的にそいつは最悪のタイミングで居眠りをしてしまった。当然ながらアルファベットなんてものは何度も繰り返し説明をしてもらえるものではない。それにより以降、英語の授業において登場してくるアルファベットとは彼にとって意味不明の記号、つまり俺たちにとってのサンスクリット文字やエジプトの絵文字、ラテン語とほぼ同義のものとなる。 守 それでそいつはどうなったんだ!? 圭介 え? 守 その後だよ。英語の授業についていけず、もちろんテストでは点数がとれない。しかしその不可思議な記号の前で我々日本人は恐ろしく無力だ。彼はその影響で他の教科においても点数が伸び悩み、さらには自分の置かれた家庭環境を恨み、非行へと走るようになる。 圭介 お~い。 守 彼はいつしか目の合う奴、合う奴に対し喧嘩を売り、周囲には誰も近づけなくなる。町では彼をロンリーウルフと呼び恐れた。そんな彼でも時折優しい表情を見せることがあった。それは・・・ 圭介 それは・・・? 守 何の話だっけ? 圭介 あのさ、いつも言ってると思うけど、自分の世界に入り込みすぎ! 守 そんなこと無いだろ。 圭介 いやいや、君の想像力にはいつもいつも脱帽させられるよ。 守 そんなことないだろ。・・・で何の話だっけ? 圭介 だから、あれだよあれ・・・なんだっけ? 守 そしたら順番に思い出そう。えっと、まず・・・ロンリーウルフは喧嘩好きの少年だ。 圭介 おう、そうだった・・・。なぜ喧嘩好きになったのかというと。 守 成績が悪かったからだ。 圭介 なんで成績は上がらなかったんだ? 守 英語の最初の時間に寝てたからだ。 圭介 なんで寝てたんだ? 守 眠かったからだろ? 圭介 いや、なんで眠かったんだ? 守 そりゃ、授業がつまらなかったんだろ。 二人 お!?斉藤さん!! ご愛読ありがとうございます クリック!お願いします! やる気大きく変動中!! ↓ ↓ ↓
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Last updated
July 26, 2007 11:39:47 AM
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