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テーマ:本日の1冊(3693)
カテゴリ:本
レーモン・クノーの「文体練習(exercices de style)」という本を読んでみた。
クノーという名前は知らなくても、映画「地下鉄のザジ」ならご存知だろうか。 この映画の原作を書いたのがレーモン・クノー。 おフランスのおじさんだ。 「文体練習」は、どうってことないある短いエピソードについての話である。 内容はかなり、お粗末である。 しかし、それを99通りもの書き方で著してみたらどうなるか。 というのがこの本のメインテーマなのだ。 そのどうでもいいエピソードはこんな話である。 『ある人がバスの中で見かけた妙に首の長い男。そいつが周りの人に足を踏んだと いちゃもんをつける。2時間後、別の場所でまたその首長男を見かける。彼は 友達からコートのボタンの位置のことでアドバイスを受けていた。』 これだけ。 コレだけである。 少々要約してみたが、だいたいこんなもんである。 ほんとにどーでもいい内容のこの話を、あれこれと手を変え品を変え、 様々な文体で表現しているのだ。 例えば、語り手を変えてみたり、やたら専門用語を並べて「哲学風」にしてみたり、 ホメロス調で荘厳なノリでやってみたり、罵倒語をふんだんに盛り込んだり。 「前から後ろから」なんていうフレーズを単語の間にやたらめったら入れてみたり (これだけでちょっとエロ~い文章になるから不思議)。 果ては、特定のルールで語順や言葉の位置を組み替えて、まったくワケワカな 文章にしてみたり。 つまり。 内容が問題ではないのである。「方法」の問題なのだ。 そして、いかにその「モード」を醸し出せるか、なのだ。 99種類も並ぶと、かなり壮観である。 比較してくことの面白さが、なんとも小気味いい。 この本、出版されたのは1947年なのだが、フランスでは、以来ずっと版を重ねている 人気作品だそうだ。 外国人がフランス語を勉強するのにも、役立つテキストらしい。 さらに、よくこんな本を日本語に翻訳できたもんだと思う。 当然なんだが、「翻訳不可能」というものも存在する。 例えば「ぱっと見、英語なんだが、声にだしてみたらなんとなくフランス語っぽい」 文体とか。ギリシア語風な造語を散りばめた文体とか。 どんな風に「変奏」されているかは、是非実物を読んでもらいたい。 翻訳者である朝比奈弘治氏による解説が巻末に詳細なので、 本文を味わいながら、この辺りも大いに楽しめる。 表紙の装丁もスタイリッシュでおしゃれだし、本文の各ページに施された ちょっとしたお遊びも、なんともいい風情である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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