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UNA5951

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2005年11月30日
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テーマ:本日の1冊(3697)
カテゴリ:
初めて石田衣良を読んでみた。
ウエストパークゲートとかはかなり話題になったし、本人も色々TVに出たり
しているし、一度は衣良ワールドを体験しておきたいと思っていた。たまたま
手に入ったのでかなり期待して読んだのだけど、正直言って物足りない気分に
なった。「さらりとした感じ」がウリなのだろうが、「さらり」というには、
なるほどさらりだなという感触があるはずなのに、そういう手応えがないのだ。

『エンジェル』も『波のうえの魔術師』も、構成はよく似ている。
あまり社交的でないモラトリアムな青年が主人公が、何かの「きっかけ」で突然
行動を起こして、成功して、その後ちょっと苦い思いをして、でも新たな希望を
持つ、というパターンである。
この、「きっかけ」以降の主人公の行動に、共鳴できない。
これまでとは別人のようになって行動し、成功していく、という結果そのものは
どうでもいい。きっかけ以前の主人公のテンプレートが、きっかけ以降の主人公
の行動にいまいちリンクしていないのだ。過去のテンプレートをばっさり捨て去
ることで、これまでにはない行動を取るという図式なのだろうが、その行動があ
まりに直線的で、どうも違和感を覚える。
『エンジェル』の場合は、死んだ主人公が幽霊になって意識を回復する(自分の
過去をフラッシュバックして、自分の死の原因を探る)という、「きっかけ」の
インパクトは大きいが、それにしても、その後の行動が人間本来の思考・行動パタ
ーンであるノンリニア性から隔絶していくというのは、腑に落ちない。
前半部分(フラッシュバックによって主人公が自分の半生を追体験する)が
丁寧に書かれているだけあって、もったいない感じがする。

いわゆる青春小説という分野に入るのだろうが、それなら佐伯一麦の「ア・ルース
・ボーイ」にこそ、過去とそれを振り捨てた切実な生がたぎっている。
または、「軽さ」を絶妙に物語に織り込んでいく村上春樹の『世界の終わりとハー
ドボイルド・ワンダーランド』の、さらり感に潜む恐るべき仕掛け。主人公の行動の
リニアとノンリニアの間で、読む者は脳の配線まで変わってしまう。
または、江戸川乱歩の『虫』に示された救いのない情けなさ。恋という「きっかけ」
が主人公にもたらしたインパクトの大きさが、鮮やかに浮かび上がってくる。

主人公の世界観。おそらく物足りなさの中心はこれに尽きるのだろう。
「きっかけ」を基点に、主人公はこれまでの世界と決別して冒険を始める。
新たな世界に踏み込んだとき、見えてくるのはそれまで築いてきた彼の世界観である
はずだ。「きっかけ」と「冒険」によってその世界観の変わったことに説明は不要だ。
彼の世界に、どのようにひび割れが入っていったのかを見たいのだ。変わったという
事実自体は、何の解説もなく読者が読み取っていくものなのだから。


ちなみに、『波のうえの魔術師』は長瀬智也主演『ビッグマネー!~浮世の沙汰は株
しだい~』というタイトルでドラマ化されてたらしい。知らんかった。
原作よりこっちの方が面白いような気がする。

エンジェル
エンジェル

波のうえの魔術師
波のうえの魔術師


ア・ルース・ボーイ

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上巻)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(下巻)

江戸川乱歩「虫」は、短編でどこに入っているか不明ですm(__)m





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最終更新日  2005年12月01日 02時33分56秒
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