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テーマ:本日の1冊(3698)
カテゴリ:本
岩塩や塩湖がほとんどない日本で、山間部ではどうやって塩を手に
してきたか。海から山へどんなルートが誰によって、何によって作 られていったのか、想像できるだろうか? 売りに行く、買いに行く。言葉にすると単純なのだが、そこには細 やかで大胆な、創意と工夫に満ちた庶民の世界がある。材木や木地 師、牛、土器や鉄器などさまざまな関係が絡み合い、模索しながら 道を作ってきたのだ。生活というものが相互性や複合性をはらんで いること、そしてごくごく普通の生活の集積こそが文化であること を、深く考えさせる一冊である。 一文を紹介しておく。 ---- 民衆が一つの道をたどっていくということは、今日のように便利な らば、あるいは地図があれば、これをどこへ行けばどうだというこ とはわかっていますが、途中で人に聞くことができない細道の、そ の行く先を確かめ得たということは、人間の必然的な叡智というも のが、そこに働いていたということであります。それを、あとから 来る人たちも歩いては踏み固め、大きくして、やがて今日のような 道になり、山間の文化をつくりあげていくようになったのだと思い ます。 ---- 地図にない細道を歩いているは、古人だけではない。古人の作った 道の上を辿りながらも、私たちもまた、自分でその行く先を確かめ る道程にいるのだ。ごく私的な意味においても、この時代を生きて いる一人の人間としても、自分がいるポイントが、常に次の一歩を 踏み出す先端にいること。それを忘れないでいたいと思う。 『塩の道』 宮本常一 講談社学術文庫 *** 宮本常一氏は1907年山口県生まれ。「宮本民俗学」といわれるその 体系は、主として聞き取りという、フィールドワークによって成さ れたものらしい。研究を続けた60年近い歳月の中で4000日を旅に 費やし、1200軒もの民家に泊まったという。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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