カテゴリ:小説BACK UP
街の中心の教会にリィティールはいた。まだ少年で、幼くとも優しい顔立ちでうつくし
かった。 教会の中の像は優しくリィティールを見下ろしている。 「せいじょさま」 リィティールは愛しげな視線をその少女の像に向ける。 朝の光が幻想的にリィティールを照らしだす。 「僕は今から王宮に奉公に行くんだって。剣が上手だからまだ若いけどもっと修業させて もらえるんだよ」 誇らしげにリィティールは物言わぬ像に報告している。 「リィティール!」 教会の扉が左右に開かれ、父であるラルイール・ガルディバスが入ってきた。 ラルイールはサルファン国の守備衛兵長を勤め、サルファン国では名門の騎士家の当主で もある。 教会の中にリィティールの姿を確認すると、にこりと笑い近づいてきた。 「あ、お父さま」 ラルイールの姿を見つけるとうれしそうに駆け付けた。 「リィティール、もうすぐ入隊式だ。準備は済んでるな?」 ラルイールはリィティールの姿を眺めた。幼さは残るものの毅然とした姿に父、ラルイー ルは誇り高げに唸る。 「さぁ、行くぞ」 ラルイールはリィティールの手を取り教会を出た。 「お父さま、恥ずかしいです」 外に出るとリィティールは父の手を振りほどいてしまう。 幼いリィティールにはあまり似つかわしくない少し大きな剣を帯び、父の少し前を胸を張 り歩く。 しばらくゆっくりとあるいていたリィティールだったが、うずうずと肩を震わせるとラル イールを振り返った。 「先に行ってます、お父さま」 えへへっとはにかみ笑い、ラルイールに手を振って北へ、王宮へ走りだした。 「リィティール!」 制止しようとしたラルイールだが、時すでに遅く、リィティールは声の届かないところま で走り去っていった。 リィティールは一人、王宮への道を走っていた。 街の人たちは幼い騎士に物珍しそうな視線を投げ掛ける。リィティールはそれに気付いて いたが、知らぬ顔で王宮へ迎う速度を早めた。 ドンッ 「…わぷ!」 不意に角から曲がってきた人物にぶつかる。ぶつかった拍子にリィティールは尻餅をつい てしまった。 「…いてて…」 転んでぶつかった尻をさすりながらぶつかった相手を見やる。 相手も驚いたようで小さな騎士を見下ろしていた。 相手は黒い長衣を身に纏い、目深にフードをかぶっていた。杖を持ち、見た目では初老の 男性だった。 「…おや…これは騎士様ではないですか?小さな騎士様ですな?大丈夫でしたか?お怪我 はありませんでしたか?」 黒い男が礼儀正しくリィティールに一礼した。走っていた自分が悪いのだが先に誤られ、 どう謝罪していいのかわからず頭を掻いた。「…あの…」 「小さき騎士様…?あぁ、気になさらないでください。私のほうはまったく無傷ですか ら」 見た目よりかは遥かに優しい笑顔で男は言った。 「リィティール!どうかしのか!?」 追い付いたのか後ろから父の心配そうな声がした。 ―僕は騎士になるんだ…こんなとこ、父に見られたくない― 「僕が走っていたのが悪いんですよ、おじ様。ごめんなさい、怪我はしておられません か?」 リィティールは戸惑いながらも黒い男に誤った。 「おやおや、立派ですな。私は大丈夫ですよ。私はそなたが気に入りましたよ。もし不都 合がなければお名前をお伺いしても構いませんか?」 男は満面の笑みでフードを外し、右手を差し出した。握手を求めているのだ。 「リィティール・ガルディバス」 リィティールは戸惑いながらも右手を男の右手と重ね合わせる。 「ほほぅ。騎士家で有名なガルディバスのご子息でしたか」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.01.05 21:06:12
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