カテゴリ:小説BACK UP
男はリィティールの名前を聞くと、意味ありげににやりと笑ったようにリィティールには
見えた。 「申し遅れましたかな。私の名前はエサノア、エサノア・ニルンディアといいます。これ でも魔法使いなんですよ?」 似合わないでしょう?っとエサノアが笑う。そうこうしているとラルイールが何を戸惑っ ていたのか追い付いてきた。 「リィティール、どうかしたのか?」 訝しげな顔でラルイールはエサノアを見つめる。それもそのはずである。全身が黒ずくめ な姿は青を基調とするサルファンでは珍しかったのである。 「僕がぶつかったんだ」 罰が悪そうに俯いてしまう。 「リィティール、ちゃんと謝ったのか?いやはや、申し訳ない。怪我はしておられません か?」 ラルイールがすまなさそうに頭を垂れた。 「いえいえ。気になさらないでください」 エサノアはにこりと笑う。 「…あの…おじ様?まほうつかいってなんですか?」 父とエサノアの間でリィティールは不意に口を開いた。今まで聞いたことのない言葉で、 リィティールにはそれがなんなのかわからず父とエサノアの会話の間中、考えていたので ある。 「リィティール!不躾に失礼だぞ。それに時間がない、入隊式に間に合わなくなる」 ラルイールはエサノアに別れを告げ、リィティールをなかば引きずるようにしてその場を あとにした。 「リィティール・ガルディバス…か」 一人取り残されたエサノアが呟いた言葉は誰にも聞こえることなく宙へ消えた。 王宮へあと少しのところでラルイールは立ち止まった。 「リィティール、あの男に再び会っても相手にするな。魔法使いなんてのには関わるな」 「どうしてですか?」 魔法使いとはどういゆうものかわからないリィティールにとってはラルイールの忠告は理 解できないものだった。 「どうしてもだ。いずれ教えてやるから今は入隊式に急げ」 ラルイールはリィティールの背中を押す。リィティールはこれ以上何も言わず王宮の中に 入っていった。 王宮で行われた入隊式はつつがなく執り行われた。リィティールの他の入隊式に出ている 若者はリィティールよりも五歳前後年上で、リィティールはひどく幼く見えた。 その後に行われた新入騎士見習い達による仮試合では、リィティールがずば抜けた能力を 発し、年上の他の騎士見習い達を負かし、すべてにおいて勝ってしまった。 試合を観戦していた父、ラルイールは満足気に始終笑っていたのである。 『さすが、ガルディバス家のご子息だ』 まわりで見ていた観客たちが口をそろえて囁いた。 入隊式が終わり、リィティールは騎士見習いが住まう厩舎へ入った。仮試合に勝ったリィ ティールは個室を割り当てられた。 「…」 荷物を放り投げベッドに身を投げだす。 リィティールは複雑だった。年下の自分が勝ってしまった事、個室を割り当てられたこと にたいして今後の不安が心を占めている。この状態をよく思う人は今の騎士見習いたちの 中にはいるはずはないだろう。 ―父は喜んでいたな―試合の最中に父の方を横目で見ると満面の笑みで自分を見守ってい る姿が映った。 夜が更けていく中、リィティールは寝付けずベッドの上でごろごろしていたが、あまりに 退屈なのと長時間同じ姿勢で節々が痛みだしたので厩舎を抜け出し馬小屋へ向かった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.01.05 21:09:02
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