カテゴリ:小説BACK UP
部屋の中央で立ち尽くすリィティール。街を守るために戦っていた自分達は街の若者を殺
していたのだ。 「…うぅ…」 一つの檻から呻き声が漏れた。リィティールはその檻に近づく。 怪物化が始まっているらしく口からは牙が見えた。 苦しそうに肩で息をしているその怪物はゆっくりと顔をあげ、目を開いた。 「!?」 リィティールには馴染みの顔がそこにあった。馴れ親しんだ顔が苦痛に歪んでいる。 「…リィティール…」 旧友の姿を目にした彼は嬉しそうに笑った。助けてもらえる。苦痛からやっと解放される …と。 「…嘘だ…そんな…」 目の前の旧友の姿を見て愕然とした。 「…リィティール…?」 助けてほしくて手を伸ばすファン。 思わずあとずさっていたリィティールは目の前の懇願するような目で自分を見るファンに 近づいた。 「…ファン…」 「殺し…てくれ」 近づいてきたリィティールの腕を掴み、懇願した。 「な…」 「くる…しいんだ…楽に…なりたいんだ」 リィティールは掴んでいるファンの腕を剥がし、抜き放った剣で檻の鍵を壊した。 「…」 鍵が壊れ、半開きになったのだがファンは一考に出る気配はない。 「…ファン…」 どうしたらいいのかわからず、友であるファンを見下ろしたまま立ち尽くしている。 「ここで何をしているのかい?盗み見はよくないよ、リィティール」 背後でよく知った声が響いた。 「エサノア様…」 諸悪の根源とも言える彼は平然とリィティールを見下ろした。 抜き身の剣を下げたまま二度と会いたくない相手のほうへ向き直る。 「やはり君がここを見つけたね」 黙ったままのリィティールを尻目にエサノアはしゃべり続けた。 「…にしても少し遅すぎたみたいだね」 視線をファンに向けると小さく笑った。 「…何がおかしいんですか…?ファンを…街ねみんなをあんな風に変えて…」 剣を握る手が怒りで震えてくる。 「僕達はあなたの人形じゃない!こんなことをして…許されると思ってないでしょう ね!」 剣を構え、リィティールはエサノアを睨み付けた。 「その剣でどうするんです?私を斬るとでも?王に忠誠を誓ったあなたが私を殺すのです か?」 「逆賊が何を!」 「今の状況ではあなたが逆賊ですよ、リィティール」 エサノアは散らばった書類の中をごそごそと漁っている。 「な、なに…?」 彼の言っていることが理解できない。 しばらくの間、二人は黙り込んでいた。 「…っ」 うがぁっ 獣じみた咆コウがエサノアの背後から聞こえた。刹那、エサノアの体が宙に浮かんだ。 背後にいた怪物がエサノアの背中、左下から右上へ爪を立てて引っ掻いたのだ。鋭い爪で 掻かれたエサノアは背中から血を吹き出し宙へと舞った。 「…なっ」 いきなりの事にリティールは唖然とその光景を見守っていた。 エサノアを攻撃したのは、ファンだった。リティールがあけておいた檻の扉のせいであ る。理性を失ってしまったのかファンは目の前にいたエサノアに爪を立てたのである。 どさり エサノアがリティールの前に落ちてきた。息はあるようだが意識はない。 うずくまっていたファンはゆっくりと立ち上がった。虚ろな目でリティールを見る。 「…ファン…」 名を呼んだ瞬間、ファンは歯をむき出しに襲ってきた。 リティールはとびすさり一撃目ををよけるが間髪を入れずにファンは鋭い爪を繰り出し た。咄嗟に剣の刃で受けとめるがその強力な腕力により吹き飛ばされる。 廊下に転げだされた。背中を強く打ち、目眩がする。 「ファ…ン」 かぶりを振り、視界を取り戻す。 「ファン!」 剣を構え直し、態勢を整える。 「こんな…こんなことって…」 礼拝堂まで逃げた。ファンに切り付けることなどできない。 マリー像の下まで来る。後ろからけたたましい声でいななくファンの姿が見えた。 リティールは剣を構えるがなにもせずにファンを見つめる。ファンもどこか哀しげな瞳で リティールを見つめていた。 しばらく対峙していた二人だった。 「コロシテクレ…イッソ君ノ手デ僕ヲ楽ニ…シテクレ」 か細い声でファンが呟いた。理性はまだ残っているようだ。 「ファン!君を傷つけるなんて…ましてや殺すなんてできないよ」 ふるふると頭を振る。 ファンは自らの内にある攻撃衝動を抑えられずにたまらずリティールにむかっていく。 「ファン!」 その攻撃を避けながらもリティールは必死に彼に呼び掛けた。 ―コロシテクレ…ジャナイト君ヲ殺シテシマウ― ファンの目はそう語っていた。 防戦のみのリティールは猛攻を続けるファンを防ぎ切れなくなってきた。ファンが繰り出 す攻撃を防ぎきれずに剣を弾き飛ばされた。 「…くっ」 その隙をついてファンが爪を立て、リティールの肩をつかむ。そのまま床へ押し倒した。 「うああああ!!」 殺されると、リティールは目を閉じた。 が、しばらくたっても何も起きなかった。 恐る恐る目を開け、ファンを見上げた。 泣いていた。ファンの目には涙が浮かんでいる。攻撃衝動より理性が勝ったようである。 「いヤだ…コロしたく…ナイ」 自分の衝動を抑えようとしているのかリティールの肩をつかむ手に力が入る。でも肩から 手が離れることはなかった。 「ファン…」 「リティーる…俺ハ…」 戸惑うようにファンの視線がリティールから外れた。 リティールはファンの腕を肩から離し、壁際に落ちている自分の剣を拾い上げた。 「…私の研究は…完璧だった…私に手を挙げるなど…」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.01.28 22:16:29
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