カテゴリ:小説BACK UP
奥の廊下からふらりとエサノアが出てきた。憎らしそうにファンとリティールを睨み付け
る。 ふらふらと杖に頼りながら二人に近づいて来た。おびただしい血が彼の背中から流れ出て 床を汚す。 「こんなはずでは…」 「あなたが招いた結果ですよ」 リティールは冷たく言い放った。リティールの後ろでファンが呻く。早くしないとファン がファンでなくなることはリティールにもわかる。 「元に戻すことは…何か方法はあるんでしょう!」 リティールはエサノアに詰め寄った。エサノアは首を振る。 「君を…生かして…おくべきじゃ…なかった」 「元に戻す方法を…」 「元になど…戻らない…混ぜたものをまた…分ける…事は不可能…」 杖にも掴まっておれずエサノアは膝をついた。顔は真っ青で今にも死んでしまいそうだっ た。 「楽に…させたいなら…殺せばいい…」 どうでもよさそうに宙を向いたまま吐き捨てた。 「あなたは…」 「もうすぐ…近衛隊が…」 エサノアは最後まで言い終えるまでにリティールの剣により切り殺されてしまった。どう しようもない怒りがリティールを突き動かしたのだ。彼に対する怒りは彼を殺しても治ま ることはなかった。 「リてィール…こロせ…コろしてクレ…」 後ろでファンが苦しい声で呟いた。 はっとしてファンに駆け寄る。 「ファン…」 「コろしてクレ…ジャないと…コロしてシマウ…」 辛そうな声音。ファンは目の前の物体、リティールを攻撃したいのを必死で堪えているの か腕がわなわなと震えていた。 「…」 リティールは黙っていた。殺さなければ自分が死ぬだろう。だが目の前の彼は見た目こそ 違うものの幼い頃から一緒に遊んだ友人である。 すると、ファンはリティールの剣を持つ右腕を掴み、剣の切っ先を自分の胸へ向けた。 「…なっ」 リティールは驚いて目を見開いた。躊躇い続けているリティールに耐えかねたファン。 「や、やめてくれ…君を殺したくない…」 腕を持たれたまま俯き、涙をこぼす。 「…」 ファンはリティールの優しい心に一度、笑うとリティールの腕を持ったまま自分の胸へ突 き刺した。 ぐすっ 嫌な音と嫌な感触をリティールに伝え、リティールの剣はファンの胸へ刺さる。 ファンは呻いてその場に倒れた。その拍子に刺さった剣は抜けた。 「う…うわあああああああああああ!!」 リティールは叫んだ。 辛くて悲しくて、目の前の現実を信じたくなくて、ファンの側へ屈みこむ。 ファンは薄く目を開き、血に濡れた手でリティールの頬に触れた。 「…っ」 リティールも涙目でファンを抱き上げた。 「…ナクナ…ナクナ…リティール…」 ファンは笑っていた。 「君を殺さなくて…よかった…」 「…っ」 リティールは泣きじゃくるばかりで言うべきことばが出てこない。 「…嫌だ…ファン…こんな別れ…」 涙でぐしゃぐしゃなリティールはファンを抱き締めた。 「…あり…がとう…リティール…」 頬に触れた手が力なく滑り落ちる。薄く開いた目も閉じ、微かな吐息も聞こえなくなっ た。 「ファン…?」 動かなくなった友の名前を呼ぶが反応はない。 いくら名前を呼んでも揺さ振っても反応することはなかった。 どれくらい時間が経ったのか、それほど経っていないのかリティールにはわからなかった が、教会の外がにわかに騒がしくなってきた。 ドアが激しく開かれ、国王直属近衛隊が入ってきた。先頭にいるのはファンの父親である ドン・フィーゴンドルだった。 「…そこにいるのはリティールか?」 マリー像の下でうずくまる人影に声をかける。 「…」 人影は黙ったまま身動きしない。 「…おい」 もう一度、声をかけようとした時、人影は剣を拾いゆっくりと立ち上がった。黙ったま ま、ドンの方へ振り返る。 「…!?」 ドンはリティールの足元を見た。始めは怪物かと思ったが、顔には見覚えがあった。 「リティール…まさかお前が…?」 「…お…じさま…」 とめどなく流れる涙を拭うことなくリティールはドンを見た。 一度見ただけでそのまま視線を外してしまう。リティールは小さく頭を振ると何も言わず に走り去ってしまった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.01.28 22:21:12
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