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テーマ:最近観た映画。(40112)
カテゴリ:das Kino
夏に映画館でCGアニメーション映画 The Incredibles のTrailerを見たとき、その魅力に欠ける作画に、お粗末で悪趣味な、そして商魂丸出しB級US映画群の臭みを感じた。別にUS映画を憎んでいるわけでなく、映画好きの立場から妙な映画もどきがそれを名乗るのを嫌悪しているだけだ。例えば最近子供向けに、映画としてのQualityはそっちのけでキャラクターグッズ販売等による力づくの付帯経済効果を主眼に狙ったものが多いと勝手に感じており、本作にもその本末転倒の影が伺えたからである。
とはいえ、こういった選択は幸い与えられた側にあるので自分としては無視するだけで、勝手にやって頂戴 なのであるが。 そして先週、定期的に玄関に山積みされる地域コミュニティ紙のFilmReviewをたまたま読んでいたとき、これに最大評価の星5つ(BridgetJones2は星3つ)が与えられているのを知って少し気分が変わり、近くのODEONへと出掛けた。観た結論から言うと、思い込み100%の悪い予想に反してスーパーマンなどの古きよきアメリカンコミック(=アメコミ)をモダンに解釈し、ファミリーな味付けをした良質の娯楽映画であった。 The Incredibles ^^^^^^^^^^^^^^^^^ +まず、言うまでもないが素晴らしいCG技術に脱帽。Spidermanも然りであるがこの技術あってこその映画であるといえる。 +モチーフとして濃厚に感じられるアメコミのFantastic Four(HumanTorchもどきも最後近くに登場)とSilverSurfer、そしてX-MenのCyclopsやその他大勢有象無象?の、”こんなにいてどうするんだ?”といぶかしく感じさせるヒーロー達が作中に、殆どは思い出話として、ちらほらと登場すること、そして人間社会との摩擦を避けるためにその資質を封印した一般人として全てのヒーローたちが隠遁生活をしているという設定。これらはアメコミヒーロー文化に興味をもったことのある人々をフフフと微笑ませるだろう。 +登場人物設定のKeyPointとなる、キュートでチャーミングなママ(=ElastiGirl)。彼女の生活臭のないレモンのようなフレッシュさが無くては、Incrdible家はハンバーガー臭く脂ぎった、ただの魅力なきアメリカ家族に成り下がってしまい、こいつらに感情移入できるかよ と観客に思わせる仕上がりに成り果てていたのではないか(持ち前の弾力のせいで歳も取らないしシワも出来ないのか? 映画に限らず家庭の中では女性がカギだなあ。) +60年代のスパイ物を彷彿させ、レトロでクールな緊張感を上手く演出する音楽(実際に007シリーズのそれが流用されているようだ。) +そしてコミカルなシーンの数々。新しいコスチュームにはケープ(マント)が欲しいと言うMr.Incredible(Bob)に、ケープにまつわる愚かなエピソードを紹介して諭すデザイナーのおばちゃん。BobがElastiGirlと対面し、彼女が夕日に去っていくゴムゴムの姿を長回しに捉えるカメラ?ワーク。Bobの旧友Frozoneが氷の走路を作るシーン。などなど。。。 以上のPointを踏まえ、本作をもっとピンとくるように括るとこうなる: “アメコミヒーローの姿を借り、ちょっとお行儀よくなったThe Simpsons” 以前、US-raised日本人同僚JJが 「TheSimpsonsは甘さが強いところがちょっとねえ。。だから最近はSouthParkに惹かれるんだ。」と言っていたことがある。 彼のこの正しい評価でも示されるように多くのUS人が魅了される要因であるTheSimpsonsの作品世界のコアには過激なJokeとナンセンスにより注意深くコーティングされた家族愛が鎮座している。TheIncrediblesも各キャラクタの性格は勿論異なるのだが、このPointは共通である。監督のBird氏はTheSimpsonsも手がけている(というより多大に貢献しているらしい)ので両作品の与える雰囲気の近さも理解できる。本作はBird氏のアメコミに対するオマージュをTheSimpsons的にアレンジしたのだろう。 ただ一つ、老婆心から言わせてもらえるならば(全体の完成度と満足度からすれば非常に些細なクレームではあるのだが): どんな端役であっても殺生をせずに済ませる余裕と救いが欲しかった。 Europeで暮らしているとこういう子供を守れ的指向が強くなってしまうのは勿論なのだが、そうする事で子供向け娯楽への良心が保たれるというだけでなく、かつてDCとMarvelのアメコミ両巨頭の黎明期に築き上げられた破天荒に明るく前向きな精神とその美徳で、作品を下支えすることにも繋がると考えるのだが(アメコミでも一部の敢えて甘味を捨てた作品群はこの限りではないが。)殺生を感じさせるシーンがまるきり無かったとしてもそれがこの出色の作品の格を下げるとは考えられない。 ファミリー層だけでなく、大人の観客をも意識して作った作品なのは理解しているが、今のような世相の中で子供に近い場所にいることができるメディアの担い手には、(しかも影響力の強いUSの彼らには)敢えてそうして欲しいと願う。現在の大人社会での名声よりも次代でのそれを確立する方がはるかにチャレンジングだし、いまを生きる大人達の多くからはそういうアプローチが求められているのではないか、と期待を込めて想像している。 ところで日本ではプロモーションの容易さからか、タイトルが”Mr.インクレディブル”になっている。きっと翻訳を手がけた人達も抗議したと予想するがこれでは作品の意図が伝わらない。The Incrediblesの場合、長いので仕方ないかと同情できるが、もっとひねって欲しかった。家族あっての話なのだから。 最後に、本作は続編を作ると少なからぬ儲けが見込め、その出来栄えも更に磨きのかかった娯楽作品に仕上がるのだろう。しかし、爆発的なヒット作になってしまった今は判らないが、続編製作はきっと監督の本意ではない(なかった)だろう。自分的には見てみたい反面、続編がないことのほうが美しい気もする。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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