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おいろーぱ野郎

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2004.12.06
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カテゴリ:das Kino
最近撮られた映画には、理由はともかく、例外を除きアピールしてくるものが少ないので、興味はあるが実損ねた新旧の映画をDVDで観る事が多い。一昔以上前の名作や話題作もこの流れに沿うのであるが、これらは深夜の地上波などでTV局側の時間繋ぎのために放映されていることがままあり、偶然知らぬ間にそれを観る事になることがある。こういう姿勢は厳しい映画ファンからすれば論外なのかもしれないが、それが現実的なので仕方ない。

入院中、途切れ途切れの睡眠の後に付けっ放しにしていた地上波で”BULLITT”をやっていた。SteveMcQueenの代表作だか出世作だか、定義はともかく、言うまでも無く普通の映画好きには知らぬ人がない作品の一つである。21世紀生まれの諸兄はともかくとして。

一刻も早く病室とUK的なものから逃避したいと訴える薬漬けの体には昔馴染みのSanFranciscoの街並みが心地良い。病院のベッドで楽に流してみるにはシチュエーション的に丁度ハマッている事もありそのまま観進めた。といっても点けっぱなしのTVで予期せずはじまったので何の映画か判らず、チャネルを変えようかとも一瞬考えたのであるが、それを止めたのは素晴らしいスコアのお陰である。
MilesDavisの"死刑台のエレベータ"と比べるのは不適切だが、静かにスローでクールなサックスがOpeningに流れる。映画そのものよりも、そのメロディが薬漬けでうだる鈍い頭を惹きつける。

BULLITT

映画オタクには当てはまらない自分なので、俳優の演じ方や俳優自身のことに関する興味はそれほど湧かない。小中学生だった頃、映画小僧だった友人K君が当時まだ存命中のMcQueenにイカレてしまっていたが、子供だった自分の目には、居並ぶハリウッド俳優の中からどうしてMcQueenが飛び抜けているのか全く判らなかった。
少しずつ大人になる中で視点も変わり、McQueenの渋さと男らしさをようやく徐々に意識できるようになった。きっかけは幾度となく地上波で深夜繰り返し放送される"大脱走"でふと見たMcQueenのオートバイ捌きだった。ヘルメットを被らないノースタントで、自由自在に後輪を滑らせるアクセルワークをそう操作性が良いようにみえないWW2当時の軍用バイクを模したそれでやってのける姿をみてこれは相当バイク好きだなと実感できた。

今の自分からすれば あの無口さと落ち着き、そして甘さのない鋭い視線は、幾多の困難を潜り抜けてきた男の持つ雰囲気を備え、実に魅力的に映る。しかしスター俳優として見た場合、McQueenの顔の造作自体はお世辞にも良いとは思えない。口数の少ない火星人のように見えなくもない。従ってあの顔だけでは世の女性達の心に触れるような存在にはなりえない気がする。加えて、一般論だが男の魅力は女にはわからないというのが相場(逆も真なり)である。しかし、実際にはMcQueenは男女共に熱狂させた存在だったことからすると何か致命的な魅力を備えていたのだろう。

その後好んでMcQueenの映画を観たわけではないのだが、何かの拍子に最近の俳優(男)達の事を見聞きする度に、なぜか迫力を欠く彼らに過去のキラ星達を重ね合わせるという流れでしばしばMcQueenと比較してしまう。
今の時代にMcQueenが40歳前後の旬の年齢で生きていたとして、果たしてどれほどの人々、特に女性達に支持されるのだろう。時代が変われば入れ物も基準も空気も変わる。なのでそう設定する事自体意味のないことではあるが、結果は芳しくないことが予想される。現代の一線級俳優(男)達は男臭さが薄れ、多くが甘くソフトタッチ化しているように感じることが個人的な主因であるからだ。例を出したくもないが、泣く娘も黙るDiCaprioなど、控えめに言っても近所の中学生のガキにしか見えない。お前もう宿題済ませたのかと叱りたくなる。百歩譲ってBruceWillisで調停してくれと問われても、タフネスさは良いがMcQueenに比べると超然さに欠ける。最近の映画を見るに忍びないのは無意識にこういう要素も関っているのだろう。こんな事をほざいてる奴がただの年寄り中年に近づいている要素も、認めたくはないにしろ、捨てきれないが。

"BULLITT"は、そう抑揚の無い仕上がりであり、現代の、特にハリウッド映画群のハイスピードな展開と -- 時として不必要な位の -- 物語の稠密度に慣れた目には退屈に感じられる。地上波で漫然と観るには持って来いの作品だ。ただ、この映画の持つ静かな間合いとそれの生み出すお洒落なエレガンスには一目置かれるのがフェアだと感じる。
目を引くカットの連続からなる奔流もなく、ナレーションにも頼れず、点と点を繋ぐ見方を要求されるというのは時には良いものだ。必ず引き合いに出されるカーチェイスのシーンにはOldファンなら垂涎のFord Mustangが登場し、スタントも使用しているとはいえ、歩いてみると実感させられるあのSanFranciscoの急坂を疾駆させるMcQueenの腕には驚かされる。いい意味の余韻がずっと頭に残る。
映画がこのリズムで成立できたその当時、全てを金で定量化する事が使命のような現在の映画作りの土壌よりずっとのびのびとした雰囲気で映画人たちは映画を楽しんでいたのではないだろうか。そうする事による当たり外れはあるとはいっても、そもそも外れのない土壌と言うのは如何なものか。人間的な要素を排除して造られるものに本能の解放を感じるのは教育されない限り困難だろう。

今年の秋頃、Londonの街にN社の男性化粧品の広告板が目に付いた。JamesDeanなど懐かしのUS俳優を単独で中央に配置したそれらの写真を良く見ると彼らの脇が白くなっている。普通のデオドラントは塗ると白くなりますがこのドイツ系N社のそれは大丈夫です、という趣旨のものだ。Oldファンはともかく、JamesDeanが生きていたらこの扱いに情けなくなって自暴自棄のあまりPorscheボクスターのオープンに乗ってしまいそうだ。何人かの俳優がこの無粋な広告の餌食になっていたが、McQueenのそれだけは遺族が事前に抗議したのか脇の画像加工も無く、黒いLongSleeveシャツの胸にホルスターを巻いたおなじみのポーズを決めていた。今頃になってようやくこのポーズが"BULLITT"でのそれと判った。
アニキ、カッコいいですね、そしてお疲れ様でした、なんて言ってみたくなるのは果たして古い奴だけなのだろうか。





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Last updated  2004.12.23 03:22:16
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