「魔笛」/ポーランド国立ワルシャワ室内歌劇場オペラ(その2)
初めに「魔笛」/ポーランド国立ワルシャワ室内歌劇場オペラ(その1)をご覧ください。序曲と主なアリア序曲 ゆっくりした部分と速いテンポの部分からできています。アダージョの部分は女性フリーメーソンを、アレグロは男性フリーメーソンを象徴するといわれ、闇と光の対立と融合がシンボリックに描かれています。 きっちりした演奏でしたが、音量が少し小さく感じました。当時のオーケストラの編成が小規模なため、大きなホールだと貧弱に聴こえます。音がこもっていたのは、座席の位置も関係しているのでは?と隣りの座席の女性は言っていました。また、「フェスティバルホール」というモダンな名前のホールですが、実は築50年近く経つ古い建物で、音響の設備や機能に少し難があるのがこのホールの欠点と言えるでしょう。俺は鳥刺し パパゲーノ登場のアリア。パンフルートを吹きながら、「娘っ子が俺のものならいいのにな」と陽気なところをみせます。 オペラ歌手はアンジェイ・クリムチャックという人です。脇役ながらこの人のバリトンはとてもよく響いていました。まるで音響マイクを使用していたのではないか?と思わせるほどよく通る声でした。また、このキャラの特徴でもあるお調子者の感じが歌にも、また演じる姿にもうまく表現されていました。さらに、パンフルートもこの人が直々に演奏していたようです。たいへん器用なオペラ俳優さんだなぁといった印象でした。なんと美しい絵姿 夜の女王の侍女からパミーナの肖像画を見せられたタミーノはたちまち心を奪われ、「この火のように燃えているのが恋だろうか」とまだ見ぬ姫への思いをたぎらせます。 歌うのはレシェック・シフィジンスキというオペラ歌手です。この人の歌声も伸びがあり心地のよいものでした。感情表現の豊かさにちょっと感動!恋心を歌う巧みさに感銘を受けました。なんと強力な魔法の音―なんていい音、美しい響き パミーナが生きていることを知ったタミーノが喜んで笛を吹くと、さまざまな動物たちが現れて聴き入ります。一方、パパゲーノは一足早くパミーナと会っていますが、ムーア人のモノスタトスと奴隷たちが、2人を追ってきます。そこでパパゲーノが魔法の鈴を鳴らしてみると、モノスタトスたちは「なんていい音だ」と、うっとりして踊り始めます。 タミーノの笛はフルート奏者のものでした。歌は喜びの伴った感情がうまく引き出されていたと思います。パミーナが老婆のような姿から若い娘への早変わりが興味深かったです。パパゲーノが奏でる鈴によって動物たちが踊る様子が滑稽で、会場からはクスクスと笑い声が漏れていました。楽しい場面です。だれでも恋の喜びを知っている パミーノに恋をしてしまったモノスタトスが歌うアリア。「恋すりゃ誰でも嬉しいよ、いちゃついたり、キスしたり。だのに俺だけ恋しちゃならぬ」というユーモラスなもの。 モノスタトス役は、ズジスワフ・コルドィヤーリックという歌手のテノールです。恋をしたくてしたくてたまらない、そんな切ない感情が表現されている、ユーモラスな中にもなぜか同情を誘う場面で、自身共感できてしまった?そんなアリアでした。地獄の復讐がこの胸にたぎる コロラトゥーラが見事な夜の女王の名アリア。「ザラストロを殺さなければ、お前は私の娘ではない」とパミーナに迫る、復讐と憎しみに溢れた内容。 「のだめ」でも「多賀谷彩子」役が歌っていた超有名なアリアは、タチアナ・ヘンペルという人が担当しました。実は、今回のオペラで一番期待していたのがこのアリアでした。「ア、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ~♪」と叫ぶように歌い、とても印象に残るものです。しかし結果はもうひとつといったところでした。音程などは正確で申し分なかったように思いますが、いまいち声量が乏しく迫力に欠けていました。「トゥーランドット」のカラフのアリア「誰も寝てはならぬ」と同様、期待が大き過ぎたためか自分が想像していたものとは違っていて残念に感じました。歌手の人はもしかしたら、風邪気味だったのでしょうか。こうした仕事をする人たちは体調管理にも気をつけなければならないのでたいへんです。この聖なる殿堂では 母を許して欲しいというパミーナに向かって、ザラストロが「この聖なる殿堂では復讐を思う人はいない」と歌いかけ、愛を義務だとさとします。 スワボミール・ユルチャックというオペラ歌手がザラストロ役で歌いました。彼のバスは威厳の伴った雄々しいものでした。ただ声の線が細めに感じました。でも、実は善人だったという彼の徳のある一面を考慮に入れれば、そんなに気にするほどのものではありません。愛の喜びは露と消え 無言の試練に入っているタミーノを見て、愛が消えてしまったと誤解したパミーノが歌う悲しみに溢れたアリア。 タミーノ役はマルタ・ボベルスカというオペラ歌手でした。この人のソプラノは絶品!たいへん麗しい美声に引き込まれる思いがしました。悲しい感情がひしひしと伝わってきます。それによく響く響く!この歌手が夜の女王のアリアを歌っていたらどうなっていただろうと、思わず想像してしまいました。恋人か女房があれば 「パパゲーノ様が欲しいのは、恋人か女房」と歌う有名なアリアは、パパゲーノの性格をよく表わした愉快で楽しい歌です。 「おいらは酒と女さえあれば幸せなんだ。他はなにもいらない」的な感情が、面白おかしく表現されていて、このオペラ俳優の演技力に感心しました。笑いも誘いきちんと“うけて”いました。さすがの技術です。パ、パ、パ 可愛いパパゲーナが現われてパパゲーノと2人で歌う陽気な二重唱。 ソプラノのパパゲーナ役はユスティナ・ステンピェンです。この歌手の歌声は美しいのですが、やはり声が前面に出ていませんでした。パパゲーノがよく響くバリトンですから、その対象をなすパパゲーナが際立って声量不足を感じてしまいました。それでも、二人の陽気で愉快なやりとりは楽しいものでした。オペラ鑑賞を終えて とても興味深いオペラでした。一見複雑なストーリーのようですが、この中で巧みに交差する善と悪の相違を悟れば、とても興味深いオペラであることに気づきます。また、恋愛には試練がつきものであるということがファンタジックに描かれています。まるで、人生に起こりそうな出来事と教訓をこのオペラにギュッと詰め込んだかのような内容です。 当初は「フィガロの結婚」が見ることができなくて、ある意味「魔笛」は妥協をして見ることにしたようなところがあったのですが、いやいや「魔笛」もなかなか奥が深く、たいへん楽しく鑑賞できました。皆さんも機会があれば、モーツァルトの最後の生オペラをぜひ!←←←本日のランキングは?クリックで確かめて!