出張と食事
お父さんは仕事の種類が多い。基本的には技術者なのだが、管理関係や取引先との打ち合わせなどもあり、一つに集中することがなかなか難しい状態になってしまった。若い頃は技術のみで仕事ができたのだが、それでも技術に関する出張などはそれなりにあった。 今は技術を軸にした出張も多いのだが、上司の代わりに挨拶回りのような打合せ出張も多くなってきている。 出張の中でもベトナム工場の取引先(主に東南アジアの国)に行く場合は、夜に会食をすることが多い。国内出張と異なり海外では1日に3社も4社も回ることができないので、当日に出張先近くに泊まることが多いので、必然的に会食の機会も増える。日本では会食自体が悪いことの様になってきているので、かなり頻度は少ないのだが、海外では日系企業であってもまだまだ会食の文化が残っている。実際に会議室では表の話しかできないので、会食でざっくばらんに話ができる機会は貴重である。 さて今回の話は、仕事ではなく出張時の食事の話である。宿泊して出張する場合、当然地元というか会社のある地域からかなり離れた出張先になる。当然ご当地の名産などを食べることも多く、出張時の一つの楽しみでもある。海に近い地域に行けば、新鮮な海鮮、それも東北とは異なる種類の魚の刺身や焼き物はとても美味しい。同じ魚でも料理方法が異なるので、思いがけない美味しい調理法に出会えることもある。逆に、名物に旨いものなしの言葉通り、まるで美味しくない名産を食べることもある。取引先との会食なので「不味い」とは言えないので、「初めての味」とか「面白い味」などと言ってごまかすのだが、相手もそれほど他の地域の人に受け入れられない理解しているので、まあ大人の会話といったところだろうか。 ちなみに、以前松茸の時期に、松茸尽くしの料理をごちそうになったことがある。取引先の社長さんのなじみの寿司屋に、その社長が松茸を持ち込んで料理してもらったのだ。人生で国産の本物の松茸をもう食べられないと思うほどに堪能したのは、後にも先にもあの一回だけだ。最初は感動していたが、だんだん松茸の価値が感じられなくなるぐらい、松茸尽くしだった。 さて海外の場合、こちらが現地のローカル料理をリクエストしない限りは和食レストランでの会食である。来客用に使う和食レストランはどの会社も大体決まっているので、不味いということはない。 ただ基本的には日本の居酒屋メニューなので、刺身・焼き鳥をはじめとして、日本の居酒屋と変わらない。たまにやや高級な割烹料理系で会食する場合もあるが、だいたいは海外の居酒屋である。 海鮮など日本から空輸している食材も多く、なかなかに美味しいモノを食べられることがある。そんな中で、お父さんがこれまで何度も痛い目を見ているのが牡蛎だ。若いころから貝にあたりやすい体質で、ムール貝は過去2回食べて2回ともひどい目に合っている。一緒に食べた人間がなんともないので体質なのは間違いない。 牡蛎の場合、小学生の頃に生ガキで家族全員大当たりしたことがあるが、それ以降は当たったことはない。ただし日本での話である。 アメリカ留学時代に食べた生ガキはとても美味しくて当たることもなかったが、東南アジアで食べた牡蛎は大当たり確率8割という高確率でひどい目に合っている。 生でも火が通っていても確率は変わらない。日本産でも地元産でも同じである。困ったことに一緒に食べた人は大丈夫であることが多いので、お父さんの体質が貝の何かに弱いのだと思う。 先日もマレーシア出張での会食でカキのチーズ焼きなるものが出てきた。カキは当たりやすいのでと遠慮したのだが、「ここのカキは大丈夫」と言われ食べざるを得なかった。その結果、翌日の夜からベトナムに戻るまでの5日間、ずっと腹を壊して腹痛と下痢との戦いだった。出張中という実に厳しい状態で、2次会に誘われてもとても行ける状態ではなかった。 まあ治ってしまえばこれも一つの思い出になるのだが、出張中は本当につらかった。何よりも出先でのトイレの汚さに常におびえていた。出張中には絶対にカキもその他の貝も食べないようにしようと誓った。 それでも出張時の会食はお父さんの楽しみの一つである。